新型コロナウイルス感染症と特許について

2020.06.13 

新型コロナウイルス感染症による影響を受けられた方々、またそのご家族ご友人の方々にお見舞い申し上げます。また、医療関係者、宅配業者様をはじめとする社会生活を維持するために働いておられるエッセンシャル・ワーカーの皆様に心より感謝申し上げます。

2020年3月~5月の3か月間は、当事務所(当職)においても、これまでの社会生活を大きく変えることを余儀なくされる期間でした。その影響は世界規模であり、予定していた国内外の全ての会議は中止又は延期され、緊急事態宣言中は原則として全従業員を在宅勤務としました。当事務所の国内の取引先及びイタリア、イギリス、米国をはじめとする海外の取引先・同業者及び当職の親しい友人の中にも、実際に感染されたという方が多くおられます。当職の直接の知人はみなすでに回復されていますが、そのご友人や親類の方が亡くなられたという方もありました。本当に悲しいことです。身体的な影響はなくとも経済的に或いは業務面で深刻な影響を受けたという方も少なくありません。感染が現在もなお拡大期にある国や地域もあり、その地域の友人たちのことを心配しています。わが国を始め、一先ず終息した国や地域についてもいわゆる第2波が懸念されており、一日も早い終息を切望しています。

この数ヶ月間に、感染症は人類の長い歴史の中で繰り返し発生してきたということを様々な文献で知りました。また、わが国では、各地に設置された保健所が結核感染症の拡大を防ぐために効果的な役割を果たしてきた歴史があるという記事も読みました。ワクチンや治療薬など確立した治療方法がなかった当時、”感染の拡大を防止する方法”のみが分かっている状況下で、保健所を中心として感染の拡大を防止してきたという点において、現在進行形である今回の状況との類似点があると思いました。厚生労働省から配布された「新しい生活様式」の実践例について説明された説明書とマスクを受け取りましたが、そこにも、手指消毒、身体的距離の確保、マスク着用、換気等の重要性が記されています。いずれも我々一人一人が実践できることばかりと思います。当事務所でできる取り組みとして、来訪者及び出勤者向けのアルコール消毒液の設置、身体的距離の確保のため空いている座席上の端末を自由に利用できるフリーアドレス制の導入、在宅勤務の利用拡大を行うと共に、万一感染が発生した際に備えて、6月1日以降は来訪者カードへのご記入をお願いすることといたしました。感染経路の調査協力に必要な範囲で来訪日時と氏名及び連絡先のみ記録すること、必要な範囲で関係機関に開示する場合があることを表示し、ご了承していただくようにしています。

ところで、国内及び海外の特許庁は、新型コロナウイルス感染症の影響により応答期間中に手続ができなかった場合に期間の延長を認めています(注1)。当事務所でも実際に会社の休業要請等を理由として期間延長の申請を行ったケースがありました。また、新型コロナウイルス感染症を背景とした発明相談、新しいビジネスモデルに関するご相談もいくつかありました。著名な外国文学の一節に”Necessity is the mother of invention.”(必要は発明の母)という言葉がありますが、これは発明の一側面をよく表していると思います。発明について「特許を受ける権利」は、国籍・年齢・性別を問わず、全ての人に平等に与えられています。未就学児や小学生が発明者となって特許を取得したことがしばしば新聞や雑誌で記事になっていますね。特許権を取得することは、特許を受けている発明を実施する権利の独占を意味しますので、現在のシェアエコノミーやLinuxを始めとするコンピュータープログラムの”成果物を共有し発展させる文化”の価値観からみると、特許権によって発明を独占することは、真逆の行為のように思うかもしれません。しかし、特許権は私権であり、原則として権利行使の仕方は特許権者等に委ねられています。取得したすぐれた発明に関する特許権を無償で解放することも特許戦略の一環であり、現にそのような企業も少なくありません。むしろ、特許権は非常に強力な権利であるがゆえに、特許権を取得することは、本来持つべきでない者の手に渡ることを阻止するという意味もあります。わが国では、新型コロナウイルス対策に有効な特許を保有する企業が連携し、特許を開放する動きも報道されています。また、出願することは公開することを意味するため、優れた発明が実施されることで直接的に産業の発展に寄与するだけでなく、たとえ直接実施されなくとも公開された特許出願が文献的に利用されることによって産業の発展に寄与しうるという考え方が、わが国の特許制度の根幹となっています。いずれにせよ、”Hope for the best, prepare for the worst”(最善を求めよ、最悪に備えよ)という言葉もあるように、社会が大きく変わりつつある今こそ長期的な視点に立ち、最悪の事態に備えつつも最善の結果を求め、人智を集め、技術革新によってよりよい社会に近づく好機となることを願っています。

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(注1) 特許庁ウェブサイト 『新型コロナウイルス感染症拡大に伴う対応等について』 https://www.jpo.go.jp/news/koho/info/covid19_shutsugan.html