特許審査における早期権利化のメリットとデメリット

特許の出願審査のスピードは国によって異なるが、我が国の場合、通常審査では最短でも最初の審査結果(First Action)を受け取るまでに、出願審査請求書の提出日から1年前後かかるのが実情である。拒絶査定不服審判を経由して審決取消訴訟までいけば出願日から5年以上かかるケースも珍しくない。

しかし、早期審査対象出願とされるための条件を満たしているケースであれば、必要な手続により審査期間を大幅に短くすることができる(※1)。早期審査のメリットは存続期間満了までの日数が増えるという点が挙げられる。

特許権の発生時期は設定登録日であるが、権利の存続期間は出願日から原則20年である。一定の条件を満たす場合には、最長5年を限度として、延長される。このため、早期権利化をすればより長期間、特許権という独占排他的権利を存続させることが可能となる。簡単な話、出願日から6ヶ月後に設定登録された特許権は19年6ヶ月間存続するのに対して、設定登録されるまで8年かかった特許権は残り12年間しか存続しない。審査期間が短いということは、当然、権利化までのコストを下げることにも繋がると考えられる。

外国特許出願についての早期権利化についてはどうか。こちらも基本的には同様である。早期審査の制度は各国が独自に定めている場合も多いが、PPH(Patent Prosecution Highway)など国際的な枠組みを利用することもできる。但し、出願先の国によって、どの制度を利用すべきかまたは利用すべきでないかについては、ケースバイケースといえる。

では、デメリットはあるか。あまり思いつかないが、強いて言えば、早期に権利化されると出願公開よりも早く、発明内容が公開される点が挙げられる。逆に、例えば進歩性の観点で権利化が難しい発明については、早期に審査された結果、拒絶が確定することがデメリットかも知れない。また、審査結果を早期に受け取るということは、権利化のために必要なコストが前倒しされるということも考えられる。要するに、今期の予算で出願審査請求するか、来期以降に回すかという判断と同様に、拒絶理由通知の対応などいわゆる中間処理の費用を今期で見積もるか来期以降の予算として見積もるか、といった話しに繋がると考えられる。さらに、我が国の場合は権利発生後に納付する維持年金の負担などが考えられる。

戦略的な理由、例えば、実施予定と権利化の時期を調整するため、或いは、権利の帰趨が未確定な状態(要するに、特許出願中(パテント・ペンディング)の状態)を長期間維持しておきたい場合には、審査結果(特許査定又は拒絶査定)が早期に確定してしまうという点がデメリット(確定する前に分割出願すればすむだけの話しであるが、分割出願のコストがかかるという考え方もある。)かもしれない。改良発明を含めた包括的な権利化を目指す場合も、早期審査(というより出願審査請求)を見送ったほうがよい。

上記の通り、権利化できる可能性が小さいため敢えて期限ギリギリまで権利化を先延ばしにするケースも現実には多数見られるが、分割出願やPCT出願などを駆使して適切な対応を取ることができれば、早期権利化には時間とコストを節約する以上に多くのメリットがあると考えられる。

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※1 特許庁ウェブサイト「特許出願の早期審査・早期審理について 」
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/v3souki.html