メタバース空間内における商標権侵害・不正競争防止法の適用について

メタバース空間(仮想空間)内で商標権侵害行為は成立するか。不正競争防止法に基づく差止請求、損害賠償請求等についてはどうか。

参考となる外国の裁判例などは存在するものの(※1)、本稿執筆時点で、我が国の裁判で実際に争われたことはないため、答えを知っている者はいないと思われる。

メタバース空間内で権原無き第三者が登録商標と同一又は類似の商標をそのデジタル画像としての指定商品又は指定役務に使用された場合に、我が国の商標法上、商標法25条に規定するいわゆる専用権又は第37条第1号に規定するいわゆる禁止権の侵害になるかどうかが問題となる。

我が国の商標法第2条は、以下のように規定している。

第2条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。

一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
2 前項第二号の役務には、小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供が含まれるものとする。
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為

(以下略)

 

上記の定義規定によれば、メタバース空間内で使用される商品が、商標法第2条における「商品」に該当するか否かが問題となる。

一方、我が国の商標法の保護法益は、形式的には商標、実質的には商標に化体した業務上の信用、と考えられており、商標法の法目的は、商標が自他商品の識別機能を有することを前提として、出所表示機能、品質保証機能、広告宣伝機能等を発揮することを通じて、産業の発達と需要者の利益を保護することにあると考えられている(※2)。

そうすると、メタバース空間内での商標の使用も、その使用態様によっては、商品又は役務との関係において、実質的に業務上の信用が侵害されうる場合があるとも考えられる。

しかしながら、「仮想商品」や「オンライン上で使用する」といった特定がない、単なる商品(例えば「履物」)のみが指定商品として商標登録を受けていた場合、「商品」の定義をメタバース空間内での商品に拡張する定義規定或いは判例その他の指針がない限り、やはり、現行法上は、メタバース空間内で使用される「商品」にまで拡張することは、困難ではないだろうか。

もっとも、指定商品が、例えば「仮想商品、すなわち、オンライン上で使用する履物」であれば、おそらく商標登録が可能であると共に(※3)、商標登録後はメタバース空間内での当該指定商品についての侵害行為に対しても、我が国の商標権に基づく権利行使することが可能と思われる。

他方、不正競争防止法については、適用条文によって要件は異なるものの(※4)、要件を満たす範囲で権利行使が可能と思われる。その他、著作権侵害などについても検討の余地があると考えられる。

さらなる問題点として、国境がないメタバース空間内での法律問題については準拠法も問題となる。典型的な仮想事例として、当事者の双方が日本企業であった場合、我が国の国内法を準拠法として我が国の裁判所で審理することは一定の合理性があるが、現状はルールが未整備なため、様々な事案を想定しつつ国際的なルール作りが求められていると考えられる。

いずれにせよ、今後の商標登録実務の指針としては、出願商標について使用される商品又は役務がメタバース空間内でも使用されうる場合には、オンライン上で使用する指定商品や指定役務を含めておくことが重要になるのではないだろうか。

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※1 Hermes International et al v. Rothschild
※2 商標法第1条
”この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。”
※3 商標出願 2021-132596
※4 例えば、不正競争防止法第2条1項であればいわゆる周知性の立証について相応のハードルがあるし、商品形態の模倣であれば、権利を主張する側の商品の日本国内において最初に販売された日から起算して3年以内といった時期的なハードルもあるが、これはメタバース空間内に限ったことではない。