IoT関連発明の特許性(発明成立要件)

近年、IoT (Internet of Things)やAI (Artificial Intelligence) に関する発明についての特許出願が増加している。審査の透明性と画一性を担保するため、わが国の特許庁は、平成30(2018)年3月には、世界に先駆けてIoT関連技術の審査基準等を公表している(※1)。改訂審査基準は、従来から存在する「コンピュータソフトウェア関連発明(CS関連発明)」に、IoT関連技術に関する事例を追加する形で行われた。一言でいうと、本質的な審査基準の変更ということではなく定義の明確化や事例の追加であるが、発明成立要件や進歩性の考え方を示す事例の追加は出願書類を作成する上では非常に参考になるのでその一部を紹介する。

例えば、以下の請求項は、特許法第29条第1項柱書に規定する「発明」に該当するであろうか?

[請求項1]
ネットワークを介して外部サーバと通信可能な電気炊飯器の動作方法であって、
前記外部サーバから、
複数のユーザの炊き方の好み、帰宅時間及び内食の有無に関する情報を受信するステップと、
前記帰宅時間及び内食の有無に関する情報に基づいて、
内食の予定があるユーザのうち、最速のユーザの帰宅時間の直前に炊飯が完了するよう、炊飯の開始時間を設定するステップと、
前記炊き方の好み及び内食の有無に関する情報に基づいて、内食予定の複数のユーザの炊き方の好みを最適化した炊き方で、
炊飯を実行するステップと、を含む、
電気炊飯器の動作方法。

[結論] 発明に該当する。
[説明] 請求項1に係る発明は、コンピュータソフトウエアを利用した電気炊飯器の動作方法である。そして当該電気炊飯器は、外部サーバから取得したユーザの炊き方の好み、帰宅時間及び内食の有無に関する情報に基づいて、炊飯の開始時間や炊き方を制御するものであるから、請求項1に係る発明は、機器である電気炊飯器が炊飯を実行するための制御又は制御に伴う処理を具体的に行うものである。よって、請求項1に係る発明は、全体として自然法則を利用した技術的思想の創作であるから、「発明」に該当する。

[請求項1]
配車サーバと、配車希望者が有する携帯端末と、無人走行車とから構成されるシステムであって、
前記携帯端末が、ユーザID及び配車位置を前記配車サーバに送信する送信部を備え、
前記配車サーバが、ユーザIDに対応付けてユーザの顔画像を記憶する記憶部と、前記携帯端末から受信したユーザIDに対応付けて記憶された顔画像を前記記憶部から取得する取得部と、無人走行車の位置情報及び利用状態に基づいて、配車可能な無人走行車を特定する特定部と、前記特定された無人走行車に対して、前記配車位置及び顔画像を送信する送信部と、を備え、
前記無人走行車が、前記配車位置まで自動走行する自動走行部と、前記配車位置にて、周囲の人物に対して顔認識処理を行う顔認証部と、受信した前記顔画像に一致する顔の人物を配車希望者と判定し、無人走行車の利用を許可する判定部と、を備えることを特徴とする、無人走行車の配車システム。

[結論] 発明に該当する。
[説明] 請求項1の記載から、無人走行車の配車という使用目的に応じた特有の演算又は加工が、記憶部を備える配車サーバ、顔認証部を備える無人走行車及び携帯端末から構成されるシステムという、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって実現されていると判断できる。そのため、請求項1に係る発明は、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することによって使用目的に応じた特有の情報処理システムを構築するものである。

従って、「新規性」や「進歩性」、「先願」といった他の特許要件を具備することを条件に、上記発明は、いずれも特許による保護の対象となる。以上のような発明は、RASPBERRY PI (登録商標)など汎用性の高いIoT機器を用いれば比較的簡単に試作可能と思われるし、商業ベースでの量産も容易であると思われる。すなわち、汎用性の高い機器であっても、それを特定の問題を解決するための具体的な解決手段として提供すれば、発明が成立するといえる。

 

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特許庁ウェブサイトより
「コンピュータソフトウエア関連発明に係る審査基準
「第III部 第1章 発明該当性及び産業上の利用可能性(特許法第29条第1項柱書)」(PDF:374KB)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/kaitei2/document/h3003_kaitei/software_sinsa_kizyun.pdf

「IoT関連技術の審査基準等について」(平成30年6月発表の説明資料)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/iot_shinsa/all.pdf