「査証制度」について

昨年度(令和元年度)の特許法改正で導入された「査証制度」は本年度中に施行される予定である。制度趣旨や要件効果の詳細については、特許庁の改正法説明会テキスト(※1)が参考になる。

査証命令は、侵害を主張する特許権者等の申立てにより、裁判所が必要性・蓋然性・補充性・相当性の各要件を具備すると認めた場合に、査証命令の決定がなされる。

主文 「査証人に対し、査証を命じる」

これに加えて、査証人の氏名、査証対象となる書類や装置等を特定する事項、対象物の所在地、査証すべき事項(例:被告装置において噴霧する溶液の温度)など、査証のために必要な措置について許可する場合にはその旨及び許可に係る措置、査証報告書の提出期限など、詳細な事項が主文となる。なお、主文のあり方はさらに検討を要するとされていて未だ詳細は決まっていないようである(※2)。

査証命令の申立書は、必要的記載事項と任意的記載事項があり、前者は各要件を具備することを説明する事由(査証人が行うべき措置の内容と共に、立証されるべき事実と査証により得られる証拠との関係等を具体的に記載すると共に、後者は査証を実施する専門家に関する要望事項(専門分野、職種等)、査証の実施方法の提案、実験等の手順・方法等を記載することによりことになると思われる(※2)。

査証人は、「中立公正な第三者」として、専門委員、弁護士会・弁理士会の推薦、学会の推薦等が検討されている。当職も知的財産訴訟の専門委員を務めているので、査証人として任命される可能性がある。その場合、被告の工場等に立ち入るなど、実際に査証命令が下された事件に査証人として事件に関与する可能性が高いと考えている。

もっとも、査証に応じない場合の効果は「真実擬制」(特許法第105条の2の5)であることを踏まえると、査証命令の申立があった場合、裁判所は両当事者から意見を聞くなどして協議を行うと考えられ、すなわち、協議の中で証拠の提出が促されることにより、申立てがあっても全ての申立てに対して査証命令が下されることにはならないと考えられる。

日本の査証制度は、比較法的にはドイツ法の査察制度に近いと言われているが、ドイツの査察制度は提訴前(仮処分後)に不意打ち的に利用でき、しかも、査証命令に応じない場合の効果が刑罰である、中立的な第三者ではなく査察請求人自身が査察人となれるなど、実際上の相違点は非常に大きい。一言でいうと、わが国の査証制度は、現時点では、「当事者間の話し合い(協議)により被告自ら証拠を開示させるように仕向ける」制度に止まっているように感じる。それでも、実効性に乏しいと言われていた現行の証拠収集制度(証拠提出命令、検証物提示命令等)よりは一歩前進と思われる。理想的にはドイツ法と同様にすべきかもしれないが、これから運用が始まる制度であるので、運用を通じて徐々に制度の実効性が担保されるようになっていくものと思われる。

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※1
特許庁ウェブサイト 「令和元年度特許法等改正説明会テキスト」
https://www.jitsumu2019-jpo.go.jp/pdf/text/subject_036.pdf

※2 ジュリスト2020年2月号 P.14-19 「査証手続の概要及びその運用上の課題」