貸借対照表(バランスシート)と特許権

2020.07.17 

貸借対照表(BS)に特許権や商標権、著作権といった知的財産権はどのように記載されるだろうか。これは、知的財産権の価値評価と呼ばれる分野の話と関連する。

貸借対照表に「資産」として載せる場合、特許権の取得経路によって記載方法が異なる。自社開発の成果物について特許権を取得した場合、取得原価で資産計上することが原則となる。研究開発費などは既に経費処理できているとすれば、取得原価はゼロであるし、出願しても拒絶される可能性もある。権利化までの費用(印紙代や弁理士費用等)も通常経費として処理することが一般的である。権利化後、設定登録料及び維持年金は資産計上することができる。税務上、特許権は減価償却(8年・定額法)である※1。しかし、自社出願して保有した知的財産権を経費処理することはあっても資産計上するメリットはあまりないので、多くの企業は自社出願により取得した知的財産権については資産計上しないことが一般的であると思われる。この点、厳密にいえば、日本の会計基準では、研究開発費はすべて支出時点で費用処理されるが、国際会計基準(IFRS)では、研究開発費(研究段階を終えて、より具体的な開発段階に入った後の費用)の一部が資産計上される点で、相違するようである。

一方、M&Aで取得した知的財産権については時価を基礎として算出し、資産計上することが必要となる。この場合、コスト・アプローチで時価を算出するのか、その他の手段で時価を算出するのかにより、金額は大きく変わってくると思われる。大企業の場合、1件あたりいくらと決めて単純計算で処理しているケースが多いようである。また、第三者から取得した場合も、資産計上することが必要である。この場合、実際の取得価格をベースとして算出する。この場合、取引価格は適正価格で取引しなければならない。適正価格から外れる(=高すぎても低すぎても)と、譲渡人又は譲受人のいずれかに課税されるおそれがある。さらに、国境を跨ぐ移転については、いわゆる移転価格税制を考慮しなければならない。

特に、移転を伴う知的財産権について適正価格を算定することは、非常に重要である。一般に、知的財産権の価値を適正価格で算出する方法として、実費ベース(コスト・アプローチ)と、収益ベース(インカム・アプローチ)と、市場ベース(マーケット・アプローチ)と呼ばれる3種類の算定方法に大別される。特許権を例にとれば、算定方法により、たった1件の特許権の価値が、非常に大きく変わりうる。数社から合計年間数千万円のライセンス料を受け取っている特許権の価値は、残存年数によっては数億円と評価される場合もあるであろう。しかしながら、そのような特許権に対して、無効審判が請求され、権利が遡及消滅した場合、価値はゼロになるのである。要するに、特許権の価値は、算定方法によって、0円にも50万円にも50億円にもそれ以上にもなりうるということである。商標をはじめとする他の知的財産権についても同様である。商標とは、長年の業務により蓄積された信用が化体したものであり、毎年ブランド価値のランキングがニュースなどで報じられている。

このように、知的財産権に対する適正価格を決めることは非常に難しいが、価値評価に当たっては、合理的な算定の根拠となる事実をもれなく網羅することが極めて重要となる。

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※1 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(令和2年4月1日施行)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=340M50000040015
「別表第三 無形減価償却資産の耐用年数表」によれば、特許権8年、実用新案権5年、意匠権7年、商標権10年である。なお、意匠権の存続期間は最新の法改正(令和2年4月1日施行)により25年に延長されているが、耐用年数は7年のままである。