2018.03.10  ブログ 

知的財産権をめぐる紛争は、いつ発生するのか。答えは一つではないが、私は、「そのビジネスがうまく行ったとき」であると思う。世界初の画期的な新規商品、今まで誰も思いつかなかったような新規なサービスをはじめても、人々の耳目を集め利益が上がらないうちは、誰もまねしようとは思わないからである。ブランドの毀損や希釈化を防ぐため侵害行為の発見直後に発生する紛争などは別であるが、多くの場合、「現に成功したビジネスの存在」が、知的財産権をめぐる紛争の背景にある。

知的財産権による保護を受けるためには、通常、ビジネスを始める前に出願手続や証拠保全等の準備を完了させておかなければならない。「商品がとてもよく売れ始めたから、特許をとりたい」という相談に対する回答は、絶望的なものである。営業と知財の連携がとれておらず、既に顧客にその商品の概要を開示してしまっているというケースもよく耳にするが、救済可能なケースは限られる。

独自開発した商品やサービスと類似する侵害品等が出たとき、知的財産権は、そのビジネスを守るための強大な武器となりうる。知的財産権の本質は排他的権利(すなわち、侵害品を市場から排除できる権利)にあるからである。逆に、ビジネスを守るために必要な権利が何もなければ、侵害品が出回ることによる売上の低下といった、逸失利益(得べかりし利益)は経営上大きな損失となる。

一方、新規ビジネスを始める場合、他社の権利を侵害していないかの確認も必要である。「知らなかった」では済まされない。特許権等の侵害行為は、過失が推定される(特許法103条)からである。ただ、仮に他社の権利侵害をしてしまったとしても、実際に権利行使を受けるかどうかは、権利者が決めることである。一般に、知的財産権の権利行使は、通常、「警告状」を送付するところから始まる。書簡のタイトルは必ずしも「警告状」とはならないが、ビジネスがうまくいって利益がではじめた矢先にこれが届くのである。

侵害予防調査は、もし侵害している可能性がある他社の知的財産権が発見され、ベストを尽くしても回避が困難であることが判明した場合に、事業計画そのものを中止又は変更できる時点で行うべきである。この理由は、仮に実施ライセンスを受けてでも事業計画を進める意思があるとしても、そもそもライセンスを受けることができるのかも分からないし、合意したライセンス料を支払って果たして採算にのるビジネスができるかどうかも不明だからである。

売上が上昇して軌道に乗り始めた商品(或いは長年に亘って利益を生んできた商品)に対してある日突然、他社から警告状を受け取り、知的財産権をめぐる紛争に巻き込まれる。その対応に、時間とコストを割くことを余儀なくされる。これは、経営上大きな損失といえる。

これらの経験を実体験として持った会社の多くは、二度と同じような経験をしないために、知的財産の保護と活用が経営上の重要な課題であることを認識し、知的財産権に目を向け始める。これは、何も中小企業だけの話ではなく、大企業でも同様である。現在、知的財産権のライセンス収入が経営に大きく寄与している大企業の中には、過去、知的財産権をめぐる大きな紛争に訴訟当事者として関わった経験を持つ企業も少なくない。

コンサルティングは、将来のリスクとリターンの可能性を前もって伝えることに、価値がある。知財コンサルティングについていえば、特許出願や商標出願をすべきか否かの判断は、出願しなかった場合のリスクと出願をすることにより得られるリターンの可能性、及び、出願した場合のリスクと出願しなかったことにより得られるリターンの可能性を総合的に分析した結果に基づくべきである。これらを前もって分かりやすく説明することは、当事務所の弁理士にとって極めて重要な業務の一つである。

ただ、これらのコンサルティングの基礎には、「知的財産権により守る価値のある技術やブランド」があることが前提となる。知的財産権は、「転ばぬ先の杖」であるが「魔法の杖」ではなく、特許や商標を出願したからといって商品が売れビジネスが大成功するというものでもない。

従って、当事務所では、知的財産権による保護が可能な態様かどうか、また、出願した場合のリスクとリターンを考慮した検討材料を意見として述べることをもっとも重視している。


特許法
(過失の推定)
第百三条 他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。

 

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