並行輸入に関するロシアの憲法裁判所の判決(2018年2月13日判決)

ロシアの代理人より、並行輸入に関する最近の判決について情報を得たのでその概要を報告する。判決文を読んだわけでは無く、ロシア語のウェブサイト情報を元に作成された(と考えられる)英語の要約を小職の理解した範囲で再構成したものであるため、あくまで参考情報と理解していただきたい。

従来、ロシアでは、並行輸入(商標権者の同意無く、その商標を付したブランド品(並行輸入品)を海外で購入してロシア国内に輸入し、販売する行為)は国内法により禁止されていた。並行輸入品は偽造品と同一視され、商標権者は訴訟手続を通じて並行輸入品の押収や廃棄(confiscation and destruction)といった民事的救済を受けることが可能であった。しかし、2018年2月13日、ロシアの憲法裁判所(constitutional court)は、ウェブサイトを通じて「並行輸入品に対して従来認められていた民事的救済は、偽造品であるか否かによって異なるべきである」と判示したという。

従来認められていた並行輸入品の押収や廃棄といった民事的救済が認められるのは、

1.並行輸入品の商品としての品質が十分に担保されていない場合(if such goods are of improper quality)
2.安全を確保するために必要な場合(if this helps to ensure safety)
3.人の生命財産、環境や文化を守るために必要な場合(protect people’s life and health and environmental and cultural preservation )

に限定されるべきである。真正商品の並行輸入品に対する救済措置は、商品の品質が真正商品と同等である限り、偽造品に対する救済措置ほど厳しいものであってはならない。並行輸入業者に対する商標権者の権利主張は、その主張が(並行輸入業者を排斥することによって)ロシア国内に高値で輸入し販売することを強いることを目的とする場合には、むしろ不誠実で悪意ある主張とさえ認識されうる。

ただし、(押収や廃棄が認められないとしても)ロシアの判例法で確立された並行輸入品の禁輸措置などの代替的な救済措置はいまでも有効であろう、とのコメントが付記されている。

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ちなみに、我が国では、真正商品の並行輸入に関して、商標権と特許権とで異なる理論構成を採るものの、結論として、真正商品である限り原則として並行輸入は我が国の特許権及び商標権の侵害とはならないと解されている。

特許権についてはBBS事件(平成9年7月1日、平成7年(オ)第1988号 最高裁) により、国内消尽論は認めるがただちに国際消尽と同列には論じられない、また、属地主義の原則と並行輸入とも無関係である、と論理を切り離したうえで、特許権者が国外での最初の譲渡の際に明示的に我が国への並行輸入を禁止したとの事情がない限り、黙示的に同意したと解される、として並行輸入を原則容認した(かなり雑な説明)。商標権については、古くは大阪地裁のパーカー事件(昭和45年02月27日 昭和43(ワ)7003 大阪地裁)が有名である。この事件は、並行輸入品であっても正規代理店を通じて販売された商品であっても、商品の品質は同一で有り品質は担保されている、むしろ並行輸入品が存在すれば正規品との間で公正な価格競争が起こるため需用者にとっては利益にさえなり得る、として、いわゆる商標の品質保持機能論に基づき、真正商品の並行輸入は商標権の侵害ではない旨判示し、確定した(かなり雑な説明)。その後、フレッドペリー事件(平成14(受)1100 最高裁)では、ライセンス契約に違反して商標が付された商品は、真正商品ではないとする新たな見解が加えられている。

あくまで現時点での私見だが、ロシアの判決は、並行輸入を認めた訳では無く、押収や廃棄に対して一定の制限を加えたに過ぎないものと考えられるが、判旨#1は「品質の保持機能」に着目して侵害品と並行輸入品を区別している点では、実質的には昭和45年の大阪地裁で判事された品質保持機能論と同趣旨と言える。大阪地裁には、ロシアの判旨#2,3(安全確保や生命財産等の保全に関する言及)はなかったが、公益的観点という広い意味でとらえれば、付記的コメントにあった「商標権者の悪意」は「需用者の利益の裏返し」と考えられる点において、大阪地裁の「需用者の利益」に通じるのではないか。


(参考)

ロシアにおける知的財産権侵害行為への民事上の救済措置 / INPIT ウェブサイト

並行輸入品対策にはまず税関への商標登録を−モスクワで知財セミナー開催(3)− (ロシア) / JETRO ウェブサイト