米国知的財産権侵害訴訟における最近の損害賠償の傾向

米国の裁判所で認定される特許権侵害訴訟の損害賠償額が我が国のそれと比べてはるかに高額であった理由は、懲罰的賠償制度といった民法の基本的枠組みの相違によるほか、損害賠償額の算定方法が、製品の全体の価値(EVM: Entire Market Value)に基づくものであったためと考えられる。米国がプロパテント政策に移行した1980年代以降、このルールは米国特許訴訟のなかで損害賠償額の算定手法の中心的な考え方であった。ところが、最近では、全体の価値に対する発明の寄与分(Apportionment)を考慮することにより、損害賠償額が従前よりも低く算定されるようになっている。また、米国では、地裁が裁量により敗訴者側に弁護士費用の負担を課す例(Octane Finess v. Icon Health (U.S. 2014) )も増加しているという。これらは、いずれも、非実施主体(NPE: Non-Practice Entity)、いわゆるPatent Troll対策の一環としてなされたものととらえるべきあり、最近の米国特許法訴訟の傾向を示すものといえるであろう。
反対に、意匠特許については、依然としてEVMルールに基づく算定が現在も行われており、たとえば、2015年5月のApple v. Samsung 786 F.3d 983(CAFC)事件では意匠特許を適用した物品全体の利益が総利益であると認定し、674億円の損害賠償額を認めた地裁判決を支持している*。

米国意匠特許の価値を改めて見直すべきではないだろうか。

* 2016年3月に最高裁がSamsungの裁量上告審理請求申立を受理