特許査定後の分割

特許出願が実体審査に係属した後、無事に特許査定された場合、特許査定謄本送達日から30日以内に特許料を納付することにより、特許権の設定登録がなされる。このとき、特許料(1~3年分の設定登録料)を納付すること以外に、何か考慮すべきことがあるだろうか。

平成18年度改正特許法第44条第1項第2号の規定により、特許査定謄本送達後30日以内に分割出願が可能である。このため、対象となる出願については、先ずこの「分割出願の要否」を検討すべきである。

特許査定後、そのまま特許料を納付すれば出願が「確定」して、権利が発生する。出願が「確定」すると、以後、新たに審査を求めることは できなくなる。しかし、分割出願を行っておけば、分割出願は「未確定」のまま、権利の帰趨を保留状態にすることができる。 その結果、本願の明細書に記載されている事項のうち、今回は権利化しなかった部分について、別途権利化を目指す途が残される。もちろん、明細書に記載があることが前提のため、新たな技術的事項を追加することは認められないが、クレームの表現を、実施品の仕様により近づけたり、将来実施される可能性のある実施態様について権利化したりすることを目指す場合に、分割出願の意義があるといえよう。

また、拒絶理由通知を受けた結果、不本意に権利範囲を狭くしてしまった場合に、再度クレーム表現を 見直して、権利化にチャレンジするという場合にも分割出願が利用できる。もっとも、特許査定後30日以内の期間は、「補正ができる期間」でないため、原出願の当初明細書記載事項まで戻ることができず、分割直前の明細書が基準明細書になることに注意しなければならない。

基本発明などの重要性の高い出願でこのような戦略をとることは効果的である。実務担当者は、最後に特許庁に提出した「手続補正書」を再度ご確認し、明細書の開示範囲に対して、 希望する権利範囲が全て適切にカバーできているか、という観点をご確認することが重要である。そして、分割出願の特許請求の範囲(クレーム)を検討し、出願審査請求の時期にも留意して(事故を防ぐためには出願と同時がよいがクレームの検討に時間がかかる場合は細心の注意を払って期限管理し、自発補正を検討するのがよい。)、速やかに対処すべきである。

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