特許査定後に検討すべき事項

「特許をすべき旨の査定」(特許査定)の謄本送達を受けたあと、検討すべき事項は何か。

特許権設定登録料を納付すべきか否かを検討すること、それと、分割出願を行うべきか検討すること、この2つが真っ先に思い浮かぶ。せっかく特許査定になったのに設定登録料を納付しないというケースは珍しいと考えられるが、「前例にならう」ではなく、毎回その都度、事案ごとによく検討して判断すべきである。他方、分割出願の意義や留意事項等については、当事務所の過去のブログ記事にまとめているのでそちらを参考にしていただければと思う(※1)。

他にはないか。あるとすれば、対応外国出願の要否について検討することであろう。出願日(優先日)から1年経過しておらず、かつ外国出願も未だであれば、出願国に応じてPCT出願やパリ条約に基づく優先権主張を伴う直接出願を行うべきか否かを検討すべきである。出願審査段階で行った補正が十分に合理的であれば、補正後の内容で外国出願することも併せて検討すべきである。すでにPCT出願を行っていて各国への国内移行手続が完了していない場合は、移行期限までに移行国を選定し、すみやかに各国移行手続を進めることが考えられる。移行手続と同時に我が国の特許査定に基づくPPH(パテント・プロセキューション・ハイウェイ)或いはこれに相当する早期審査の手続を進めることも検討する意義がある。もちろん、すでに各国移行手続が完了している場合でも、補正の機会が得られる状態であれば、同様である。この場合、各国の対応出願のクレーム・セット(特許請求の範囲)が、我が国の特許査定に基づくものであってよいか否かについても検討すべきである。ちなみに、PPHはクレーム対応表を準備する手間がかかるため、実務的には、他の方法があればそちらを用いた方が得策である場合も多い。但し、マレーシアの修正実体審査など、認証が必要な場合、PPHの方が却って手続が簡素化できる場合もあり、現地代理人のアドバイスも踏まえて検討していくことが肝要であろう。

ビジネス面ではどうか。特許権設定登録後は特許権が発生する。製品やウェブサイトに特許表示を行う義務が生じる。なお、外国で販売している製品に係る特許権である場合、我が国への並行輸入(※正規代理店ルートを経由せず現地で購入し日本で販売すること)を禁止するか容認するか検討し、禁止する場合には製品やその包装等に予め我が国への輸入を禁止する旨の表示をする。表示しなければ、黙示的に同意したとするのが我が国の最高裁判決で確立された解釈となっている。この件についても過去のブログ記事に書いた。侵害品を発見した場合は警告状やライセンスの申し入れを行うことが可能となる。いずれにせよ、特許を取得した事実を公表することは、販売促進のために利用できるかもしれない。但し、特許権設定登録後、しばらくして、「特許掲載公報」(特許公報)が発行される。その公報発行日から6か月間は、「特許異議申立期間」であるので、この点にも留意する必要があると思われる。

その他、実際にどこまで利用されているか不明だが、特許法第65条のいわゆる仮保護の権利(出願公開後に公開された発明を実施している者に対して実施料相当額の支払いを求める金銭的請求を行う権利)に基づく警告状を送付していた場合には、実際にその権利を行使することが可能となる。但し、補正によって警告後に請求項が変更されている場合は、改めて警告が必要となると解される。

あとは何かあるか。設定登録日は4年目以降の維持年金の計算の起算日となる。出願件数や登録(特許)件数をカウントしている場合は統計的データの更新が必要かもしれない。社内で発明者に対して報奨金等を支払っている会社であれば、予め定めた取り決めに沿ってそれを実行することが必要かもしれない。ちなみに、平成16年法改正特許法第35条の解釈によれば、発明者に対する対価は、現金とは限られず、昇進や留学機会の付与、ストックオプションの付与、有給休暇の付与など、金銭的対価に準ずるものであってもよいと解されている。また、対価の支払時期(履行時期等)についても事前の取り決めに従う。

まだ何かあるか。また思いついたらメモしたい。

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※1 少々古い記事ではあるが、戦略的な観点から権利の帰趨が未確定の状態の特許出願を得る意義は現在でもなんら変わってないと考える。