特許無効審判手続

他社の特許権の効力を無効にするための手続として、無効審判請求手続がある。無効審判請求書を提出してから最初の審決までの期間は標準的なもので1年弱である。早ければ8ヶ月程度で審決謄本が送達される。特許庁の以下のサイトに簡単な手続の流れが示されている。
https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/document/index/gaiyou.pdf

当該特許権をめぐり現に裁判所で侵害事件として争われているケースや警告状などのやりとりが現に起こっているようなケースでは、殆どの場合、審決に不服がある側の当事者が知的財産高等裁判所(知財高裁)に提訴する。知財高裁での手続も標準的なものは1年以内に終了する。もちろん、複雑な事件ではもっと長い時間がかかることもある。知財高裁の判決に不服がある場合は最高裁で争うことになるが、最高裁は事実審ではなく法律審であるため、事実について争うことはできない。受理されるか否かは最高裁が判断するが、実際に受理される事件は極めて限定される。(小職も過去に法律問題を議論するために上告したが最高裁は受理しなかった。) この意味において、知財高裁が事実上の最終審と考えておくべきであろう。

我が国では、審判の審理は特許庁で3人又は5人の審判官合議体によって審理される。審判請求人によって審判請求書が提出された後、審判被請求人(すなわち特許権者)は「答弁書」を特許庁に提出し、ほどなく審判請求人は、答弁書の副本を受理する。多くのケースでは、特許権者は無効審判の防御として、請求項の削除や減縮を行うために「訂正請求」を行う。訂正請求が行われた場合その他審判長が認めた場合には、特許権者に「弁駁書」(答弁書に対して更に反論を行うための書面)提出の機会が与えられることもある。

その後、特許庁審判官合議体は、両当事者を特許庁で対面させ、争点について議論を行うために「口頭審理」を開催する。口頭審理には必ず双方の当事者が出席しなければならない。口頭審理に先立ち、審判官は両当事者に「口頭審理陳述要領書」の提出を要求する。これは、口頭審理の際に争点とすべきと審判官が考える事項について当事者に質問事項が送られてくるので、それに回答する形で作成する。
口頭審理当日はこの陳述要領書に従って進められる。期日後は「口頭審理調書」が送られてくる。口頭審理は原則1回である。口頭審理調書において、「以後の審理は書面審理とする」と記載されていれば、第2回目の口頭審理はない。ほどなく「審理終結通知書」が送られてきて、その後「審決」の謄本が送達される。

もし、貴社が、他社の特許に対して無効審判を請求することを考える場合、「どの請求項を無効にしたいのか?」という点を、十分によく考えることをお勧めする。なぜなら、複数の請求項が存在する場合、全部の請求項を無効にすることは、非常に難しい場合が多いからである。他方、もし、貴社が、標的とすべき請求項を限定することができるならば、それらの請求項に議論を集中させることができ、無効にできる可能性が高まるであろう。

そして、いずれの状況においても、「無効審判の証拠」はとても重要である。無効審判を請求する前には、可能な限り”強い”証拠を入手しておくべきである。ある特許を無効にすることを考える場合に、その特許の「パテントファミリー」とその出願経過記録を調べることは、「無効資料調査」を実施することと同じぐらい重要である。
それゆえ、貴社が、もし弊所に無効審判請求手続を依頼するとした場合、すでに十分な強い証拠を手に入れているかどうかを先ず最初に質問する。勿論、未だ十分な証拠が見つかっていない場合は弊所において必要な無効調査を実施することも可能である。

通常、無効調査には数週間又はそれ以上の日数を要する。その後、調査結果について検討し、無効にできるかどうかの可能性について見解をお伝えする。

費用についてはケースバイケースであるが、通常弊所は無効調査を3つの段階に分けて実施することをお勧めする。第1次調査では限られた時間と費用で狭い範囲を調査する。具体的には国内特許文献だけを調査する。第2次調査は海外特許文献にまで手を広げる。第3次調査は非特許文献である。無効にできる可能性の高い十分に強い証拠が見つかった時点で調査は打ち切りとする。
無効審判請求に際して特許庁に支払う費用は請求項の数に依存する。弊所の報酬については担当者ごとの時間制(タイムチャージ)とその他必要な諸雑費等で決定するが、予め手続ごとに予算が決められいる場合は、事案に応じて、その範囲で受任できるかどうかをお伝えすることもできる。
特許庁費用は請求項数をNとして
49,500+ ( 5,500 * N )  円
例えば、
N=30, 49,500+5,500* 30 = 214,500 円
N=10, 49,500+5,500* 10 = 104,500 円
N=5,  49,500+5,500 *  5 =   77,000 円
となる。
なお、我が国の特許法では、無効審判の請求は審決が確定するまで取り下げることができる(特許法第155条1項)。このため、審決を確定させないために審決取消訴訟を提起すると共に、相手方に無効審判請求の取り下げを条件に交渉を進めることが可能である。

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特許法第155条第1項
審判の請求は、審決が確定するまでは、取り下げることができる。
(2項以下略)