化学・材料分野(医薬品・食品、工業材料等)の特許明細書について

化学、材料分野の明細書は、実施例(実験例)が重要と思う。理論的な説明・裏付けは、あればよいが、不確かならば詳細は記載できなくても差し支えない。「こうやれば必ずこうなる」という事実を実験で確認できたとすれば、そのメカニズム(課題解決原理)が説明できないとしても、また、成功確率がたとえ1%程度であっても、発明としては成立しているし、特許要件を備えることを条件に特許されうる。

物質特許(物の発明)の場合、「製造方法と使用方法の開示」は基本的には常に必要であるが、「用途」については全てを網羅する必要はなく、考え得る用途をいくつか挙げるだけで良い。むしろ、得られた物質の評価データは重要である。化学反応を伴う場合、出発物質(出発材料)から最終生成物に至る条件、例えば温度や圧力やpHなど基本的な条件については可能な範囲で極力開示しておくことが好ましい。アミノ酸の配列表( SEQUENCE LISTING)はテキスト形式で保存した添付ファイルを出願時(国内移行時)に提出するか若しくは出願後に手続補正として提出することが必要である。微生物や細胞株は寄託番号を記載するうえ、さらに「受託証の写し」を願書に添付することが必要である。医薬組成物の場合、医学的状態(疾患)をなるべく具体的に記載しておく方がよい。請求項を広く記載する場合、実施例の記載から「拡張ないし一般化」するためには、実験結果の数や理論的説明による十分な裏付けをもってサポートされていなければならない。

特許制度は、新規発明公開の代償として付与されるというのが基本原則となり、開示不十分では権利行使に耐えうる明細書を完成させることが難しいからである。開示を希望しないのであれば、特許出願せずノウハウとして保護する方がよい。その場合、単に「出願しない」のではなく、後日発明の完成や実施の準備等を立証する必要がある場合には、事実実験公正証書を作成しておくことが好ましい。

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特許庁ウェブサイト
・ 塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン(平成10年6月)https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutugan/bio/gene/kohyo/H10/index.html

・ 微生物寄託に関するご案内
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutugan/bio/kitaku/index.html