2019.11.19  ブログ 

日本国内の知的財産権に絡む調停・仲裁事件、訴訟事件、知財ライセンス事件についてはこれまで数多く関与してきたが、国外を舞台に繰り広げられる国際的な当事者対立系の事件に直接的に仲裁人又は当事者代理人として関与した経験は、まだない。わが国の特許無効審判事件で当事者の一方が外国企業のクライアントだったことはあるし、専門委員として関与した知的財産事件の当事者の一方が外国企業だったことも数多くある。わが国の知的財産仲裁センターでも、センター員として在籍中の数年間に事件管理者としていくつかの事件にも関与した。しかし、これらはいずれも基本的には日本国内の裁判所、特許庁、仲裁センターにおける手続であり、手続書類も全て日本語でなされるものばかりであった*。

そうではなく、現在は特許権侵害事件に絡む調停事件や仲裁事件を国外の中立的な機関で行う業務に関与してみたいと考えている。いま一つ念頭にあるのは、WIPO(世界知的所有権機関)が1994 年にシンガポールに設立したWIPO Arbitration and Mediation Centerである。WIPOにおけるいわゆる調停・仲裁人(WIPO List of Neutrals)の候補者リストには、わずかながら日本人の名前もあるようである。

もし小職もこのリストの1人に加わり、仲裁人候補者として事件に関与できるようになれば、もちろん他の同様の事件において、代理人としての活動も大いにしやすくなると考えられ、いずれにしても特許権侵害の有無や無効性判断、技術的範囲の属否といった高度な判断を要する分野に関して、小職の技術的バックグラウンドと知的財産紛争に携わってきたこれまでの経験とを活かして当事者双方が合意できる和解案を提示できると思う。調停・仲裁事件ではないが、今年(2019年)7月には、ミュンヘンにある欧州特許庁(EPO)を訪問し、オブザーバーとしてある事件(特許異議申立事件)の口頭審理を傍聴する機会があった。事前に公開されている資料(特許公報や異議申立理由の証拠書類等)に目を通し、審理を少し傍聴しただけであるが、争点となっている当事者の主張は短い時間でもすぐに理解することができた。

従って、WIPO Neutralsの1人として英語でのコミュニケーションと英語を中心とする知財紛争解決手続の実務経験を積めば、将来、例えば、対立当事者が外国企業である場合にわが国の国内企業側の代理人として海外の代理人費用よりも低コストでかつ日本語で紛争解決業務を提供したり、各国の代理人と連携して事件解決にあたることもできるであろう。契約時に仲裁条項を設けておき、訴訟で解決する代わりに裁判外の紛争解決機関を利用して解決する方が企業のニーズにもマッチしていると考えられる。ちなみに、シンガポールは契約の両当事者がいずれもシンガポール以外の国籍を持つ企業である場合に、紛争解決地として選択されることが多いといわれている。

なお、WIPO Neutralsになるためにはある程度の知識と一定のトレーニングが必要であると考えられ、WIPOにおいても定期的にworkshopを開催したりe-Learningで情報提供したりしているようである。現在はシンガポールの知財弁護士や調停・仲裁事件の経験をもつ国外の代理人らと情報交換をしながらe-Learningを中心に勉強(情報収集)を進めているとどまるが、今後はWIPO主催のworkshopなどにも積極的に参加してみたい。これらについて情報・経験をお持ちの方、同じような方向を目指す方がいらっしゃったらぜひ弊所までご連絡いただければ幸いである。

また、同時に、現状に満足せず、弊所を現在よりももう少し大きくしていけたらと思う。

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* ちなみに、日本国特許権をめぐるライセンス交渉事件で相手方(特許権者側)が外国企業であったこと(当方らは国内企業側の代理人)は過去何度かあるものの、当事者の代理人同士が基本的には書面(レター)でのやりとりするだけであって、直接対面する場面は限られている。実際に相手方代理人と直接対面したのは、小職の場合、数えるほどしかなかった。現地代理人に対応出願の鑑定や無効調査を依頼したりもしたがこれらは当方サイドの代理人である。

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