国内優先権主張を伴う特許出願について(4)

小職の経験では、特許出願の依頼時に提供される資料が出願書類を作成するのに必要十分であるというケースは、あまり多くない。先行技術調査の結果を踏まえて先行技術との相違点を説明するための追加資料が事後的に必要となることや、発明の効果を裏付けるための追加データを求めることも、しばしばである。しかも、先願主義の下では、一日も早く出願する必要があるから、いつまでも待つこともできない。着手してから完成までの期間も考慮すると、ある程度合理的な期間内に得られた資料の範囲で1件の明細書にまとめることが求められる。

そのため、一般的には、まったく新規の出願ほど、時間と工数がかかる。場合によっては、良好な結果を得られた1枚のグラフだけしかない状態から明細書を起案しなければならない。そうして出願された明細書を事後的にみると、あれもかいておくべきだった、この点が抜けている、と思うことがあっても不思議ではない。しかし、それらの事項の殆どはクライアント様の側で出願後に得られた知見を踏まえて気がつくものばかりである。

このような場合に有益な出願方法が、優先権主張出願である。優先権主張出願では、先の特許出願をベースとして、足りない部分に補足説明を追加したり、新たな実施形態やそれに対応する新たな請求項を追加したりすることが可能となるからである。そうしてまとめ挙げた特許出願について、後日必要であれば、分割出願を行う。このような手法も特許戦略の1つと考えられ、制度を熟知している出願人は古くからこれを行っている。

優先権主張出願には、国内出願に適用される優先権主張出願(国内優先権主張出願)と外国出願に適用される優先権主張出願の2種類がある。当事務所では、外国出願の出願国が複数ある場合、日本を含む全ての締約国を指定して、先の国内出願を基礎とする優先権を主張した「PCT出願」を推奨している。他方、関連性はあるが全く別観点のアイデアという場合は、優先権主張を伴わない別出願を推奨することもある。優先権主張すべきか否かの判断は、実際には非常に難しい。

いずれにせよ、当事務所では、クライアント様の意向を踏まえながら、ベストの方法を提案するように努めている。