家紋を含む商標について

我が国で「家紋を含む商標」について商標登録を受けることができるか。

この問いに対する回答は、「できる場合とできない場合とがある」が正解となる。家紋を含む商標の取り扱いは、商標審査便覧42.107.06(家紋からなる商標登録出願の取扱い)(※1)が参考になる。

それによれば、家紋の利用に法的な制限はなく、また、自他商品役務の識別標識として機能しないと考えられる場合もあるとしつつ、一方で、周知・著名な家紋については、利用状況や当該家紋又は当該家紋に係る人物名に対する国民又は地域住民の認識等を総合勘案して商標法第4条第1項第7号(※公序良俗違反)を適用して拒絶する、としている。実際、著名な家紋についての登録性が否定された事例も報告されている。

当事務所で扱った例では、出願人会社の代表者の家紋と屋号等とを組み合わせて構成される商標に対して、『「周知・著名な家紋」と同一又は類似の図形を含む本願商標を、同家との関係が認められない出願人の商標として登録することは、公益的な施策等の遂行を阻害するおそれがあり、ひいては社会公共の利益に反する』として拒絶理由通知を受けた事案がある。審査段階で「出願にかかる指定商品の包装、店舗の看板や暖簾、商品に関する広告等に広く一般に使用されていること」を示す事実を立証する証拠を3例指摘して意見書で反論しただけでは拒絶理由が覆らず一度は拒絶査定となったものの、さらに11例を追加して拒絶査定不服審判を請求したところ、審判請求日から約8ヶ月ほどの後に拒絶査定が取り消され、登録審決を得た。特許実務で「周知技術」を立証するには公知文献を3つ挙げれば十分であるが、家紋を含む商標の周知性を立証するには、3つでは不十分である。

家紋を含む商標を出願する場合、事前に十分な証拠を集めたうえで家紋の周知性及び地域での利用状況をよく検討し、登録要件を具備するか否かを総合的に検討してから出願すべきである。

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※1 特許庁ウェブサイト 商標審査便覧42.107.06(家紋からなる商標登録出願の取扱い)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/binran/document/index/42_107_06.pdf