特許庁に対する審判請求の取下げ

審判の請求は、審決が確定するまでは、取り下げることができる(特許法第155条)。では、審決が確定するのはいつか?

拒絶査定不服審判や訂正審判などの査定系審判の場合、認容審決(請求人にとって有利な審決)があれば審決に不服はないため、ただちに確定する。逆に、棄却審決(請求人にとって不利な審決)の場合、出訴期間内に提訴しなかったときに確定する。知的財産高等裁判所(知財高裁)に出訴したときは、判決が出てかつその判決が確定した時点で審決も確定する。裁判で争っている間は確定しない。知財高裁で請求が認められれば審決は取り消されるからである。すなわち、「不服申立の手段が尽きたとき」に確定する、といえる。

当事者対立系審判の場合も同様である。当事者の少なくとも一方(※1)は、審決に対する不服を申し立てるため知財高裁に出訴できるが、出訴期間内に提訴しなかったときには審決が確定する。出訴すれば、裁判で争っている間は審決は確定しない。たとえ特許庁で特許を無効にすべき旨の審決(無効審決)が出た後であっても、審決取消訴訟を提起すれば、知財高裁で判決がでてしかもその判決が確定するまで、審判の請求を取り下げることができる(※2)。

この場合、無効審決があった旨の事実及びその審決の内容は出願経過記録に残るものの、最終的に審判の請求が取り下げられれば、無効審判の過程で特許権者側から提出された訂正請求は未確定のまま審判請求時の特許請求の範囲で特許が維持されることになる(※3)。例えば、無効審決を回避するために特許権者が自ら訂正請求により削除した請求項は復活し、権利範囲を減縮するために特許権者が自ら追加した訂正事項は訂正前の状態に戻る。これは、無効審判で不利な状況に追い込まれている特許権者にとって非常に大きなメリットに、逆に、審判請求人にとっては強い交渉材料になり得る。この点、取消理由通知後は申立てを取下げることができない特許異議申立(特許法第120条の4)とは対照的である。

従って、無効審判とは別に民事訴訟や裁判外での和解交渉が並行して行われている場合、審判請求の取下げが和解交渉を進めることを後押しすることもある。もっとも、特許権者側に無効にされない十分な自信があれば、特許権者にとっては早期に「特許維持」の審決を確定させる途が最善と考えられる。そのような特許はより一層高い価値を有する。

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※1 一部認容審決の場合、双方が不服を申し立てるということもある。
※2 取り下げるためには相手方の承諾が必要である(特許法第155条2項)。
※3 もっとも審判請求が取り下げられたとしても無効理由が消えるわけではない。