2019.07.13  ブログ 

パブリックリリースや学会発表などの都合により、取り急ぎ出願日を確保するためにした特許出願(先の出願)について、内容を精査し加筆した上で1年以内に国内優先権を主張して特許出願をする手法は、もっとも典型的な国内優先権制度の利用態様の1つである。この場合、原則として、(経済産業省令で定める)1年4月経過後に先の出願が取り下げられたものとみなされる(特許法第42条1項)。

後の出願(国内優先権主張出願)の出願書類に先の出願の内容が全て含まれるように記載すれば、先の出願が取り下されげらたものとみなされても、後の出願が優先権の利益を伴って審査されるため、出願人には特段の不利益はない。従って、国内優先権主張の基礎となる先の出願について出願審査請求することは、法律上、あまり想定されていないと思われる。

しかし、ある国内特許出願(先の出願)がされ、出願から時期をおかずすみやかに出願審査請求され、かつ、国内優先権主張を伴う後の出願がなされ、この後の出願についても出願審査請求されるというケースが現実には起こりうる。例えば、現在では、特許出願日から1年4月以内に特許査定が確定することは現実的である。さらに、特許査定が出願後1年以内であれば、優先権の利益を享受しつつ、補正では追加できないような新規事項を含む請求項や実施例等を新たに追加することができる。この点において、特許査定後30日以内に分割出願(特許法第44条1項)を行うよりもはるかにメリットが大きいといえる。もちろん、後の出願で追加した請求項に対する新規性・進歩性等の特許要件の判断基準日は、後の出願日となる。

他方、上述した先の出願の取下擬制は、先の出願の特許査定が確定していれば回避される(特許法第42条1項ただし書き)。かくして、取下擬制を回避しつつ、国内優先権出願によって発明(請求項と実施例等)を追加した後の出願について改めて出願審査請求すれば、後の出願に記載された追加発明について特許を受けることができる。この場合、重複する請求項は削除しなければならないため、特許権が2つに分かれるという意味において「包括的」ではないが、「漏れ」無く権利化できることにはなる。

さらに、追加発明を含む有効なパリ優先権主張を伴う外国出願を行なった場合、基礎出願から追加した請求項に対してはパリ条約4条F後段のいわゆる部分優先となり、国内優先権主張の効果(特許法第41条2項)と同様、先の出願内容を含む包括的でかつ漏れのない1つの特許を「我が国以外の国」では取得できる。PCTルートで自己指定(指定国に我が国を含むPCT出願)をした場合、わが国の審査に関しては国内優先権出願と同様の扱いになる。このため、先の出願がわが国の国内出願である場合は優先日から1年4月経過後には先の出願が取下擬制される。従って、先の出願(基礎出願)について出願審査請求すれば、上記と同様の問題が生じうる。出願審査中の先の出願の取下擬制を回避できない場合に、基礎出願を分割出願するか後の出願(自己指定出願)での包括的な権利化を目指すかは、経営判断になるであろう。

もちろん、取下擬制前までに我が国の指定を取り下げれば、先の出願の取下擬制を回避できる。しかし、この場合、PCT出願の際に追加した発明についてのわが国での権利化の途が事実上閉ざされることになる。

先の出願を早期に権利化させるというもくろみが外れ、拒絶理由通知をなかなか解消できず、取下擬制される1年4月に近づいた時点でまだ特許査定までには至らない場合は、どう対処すればよいであろうか。完全に拒絶理由を回避できない場合は取下擬制を受け入れるしかない。他方、まもなく特許査定される見込み(或いは拒絶理由は補正により解消可能だが時間的に間に合わない)という場合は、悩ましい。先の出願の取下擬制を受け入れて同一内容を含む後の出願(優先権主張出願)の審査で再度権利化を図るという選択肢は、目前の特許査定を断念してはるか将来の後の出願で再度審査を受けなければならないことを意味し、できれば避けたいと思うのが通常である。従って、このような場合は取下擬制される前になんとか先の出願の特許査定を確定させるために努力を尽くすしかないであろう。

なお、先の出願(国内出願)の特許査定が確定したあと、優先権を伴うPCT出願で自己指定して我が国に国内移行された国内出願(日本語でされた国際特許出願)は、先の出願と重複する請求項を削除しなければならない(特許法第39条1項)。

 

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