商標実務の奥深さ

同じ商標(マーク、標章)について、同一の商標権者が複数の商標権を維持しているケースが存在する。たとえば、ある指定商品又は指定役務について商標登録を受けたあと、同じ商標について別の指定商品又は指定役務を指定して商標登録を受けるケース、あるいは、平成9年4月から導入された指定商品の書換の手続によって1つの権利が複数の区分に細分化されるケース、などが典型例である。

このようなケースでは、登録10年後の更新費用が膨らんでしまう例が多く見られるが、次回更新期限までに1出願多区分制度を利用して、1件の商標登録出願にまとめて新規に出願・登録することで期限管理が容易となるだけでなく、更新費用のコスト削減も可能になる。

弊所で取り扱っているあるケースで試算したところ、3件の商標登録(指定区分数がそれぞれ、3,4,4)を更新登録を1つの商標登録にまとめることで、そのまま維持・更新し続ける場合よりも3割以上のコスト削減ができるものも存在していた。

対応する外国出願が存在するケース、あるいは、現在は日本でのみ商標登録を受けているがこれを外国でも商標登録を受けたいケースではどうするか。代理店契約が存在する場合はどうか。外国商標出願の際には現地の言語に翻訳するべきか否か。権利取得後のライセンス関係の処理、類似商標が現れた場合の対処、不使用取消審判への対策などなど。

特許・実用新案・意匠など比べて、商標は出願人・商標権者になる業種が多岐にわたり、商標出願ご依頼時に担当される方は必ずしも商標制度に精通された方でない場合も多いため、都度ていねいに説明を行うように心がけているが、クライアントの数だけ事情が異なり、事情毎に十分な検討と戦略が必要である。

商標出願手続自体は、作成自体は比較的簡単に見える書類を特許庁に提出するだけであることを考えると、その出願に至るまでに必要とされる考慮すべき事項は非常に広く深い。商標実務ほど奥の深いものはない。