知財業界(特許業界)へのキャリアチェンジについて

特許や知的財産を扱う職業に興味がある方がどれだけいるか不明だが、知財業界へのキャリアチェンジについて考えておられる方の参考になればと思い、知財業界の現状について特許事務所の視点から私見をまとめてみる。

最新の統計資料によると(※1)、我が国の弁理士の人数は2021年9月30日現在、11,994人。このうち、全体の72%が特許事務所(特許業務法人)経営又は勤務弁理士でその他が企業内弁理士等、そして理工系が78.7%で文科系その他が21.3%である。

我が国では、特許出願の実務に直接関わる業務は特許事務所に依頼され処理されることが一般的であるので、特許実務所に所属し、特許事務を直接的に担う技術系弁理士の人数は、名簿上6,796人(=11,994人×72%×78.7%)となる。すでに現役を引退された方、実務部隊を指揮監督される立場であるため実務からは離れている方なども含まれるため、実務をバリバリこなす現役の弁理士は、多く見積もっても5,000~6,000人以下ではないかと推定される。

一方、我が国の特許出願件数は、過去15年で42万件(2005年)から29万件(2020年)に減少した。弁理士の人数が過去20年で倍以上に増加する一方、出願件数が4分の3以下に減った。これだけみると、弁理士の1人当たりの業務量が激減しているように見えるのだがそれでも、年間30万件近くもの特許出願がある。外国への特許出願件数及び外国からの特許出願件数はいずれも増加傾向にある(※2)。つまり、限られた人数の弁理士がこれら全ての業務を行っている。単純計算で1人あたり年間50~60件だが、実際には弁理士の指揮監督の下、特許技術者や図面作成担当者や調査担当者などの補助者を含めてチームで処理しているのが実情と考えられる。これらの現実に目を向ければ、十分なスキルを持った弁理士は業界全体として足りないと個人的には思っている。

弁理士は、必要なスキルさえ身につければ文字通りたった一人で独立開業することもでき、かつ生涯続けることができる職業の1つである。また、学生時代までの様々な学習と、社会人としての経験を通じて身につけた技術分野についてのバックグラウンド、ビジネス・経営・コミュニケーション等のスキル、法律や語学力などの知識を最大限に活かせる職業の1つでもある。特に、小学校から大学・大学院で学習した理数系の科目や語学の知識などは、弁理士業務にもそのまま役にたつはずである。長く研究開発職に携わり、早期退職や転職などを機にキャリアチェンジを検討されている方、技術と経営に関して深い知識と経験を持っている方、語学が堪能で国際性豊かな業務に興味がある方など、新しく何かを学ぶことに対して前向きに捉えられる方には、ぜひともお勧めしたい職業である。

もちろん、非技術系分野を得意とする弁理士にも多くの活躍のチャンスがある。意匠や商標、訴訟、調査や鑑定など、特許出願事件以外にも数多くの業務があるし、弁理士試験合格後に理工系の大学に通うなどしてスキルを身につけて特許出願業務を扱うようになる弁理士が多いことも事実である。特に、昨今の業務拡大により、著作権や不正競争防止法、種苗法や原産地表示(GI)、税関への輸入差止手続など、弁理士が扱うべき業務の幅はますます拡大している。さらに、外国に目を向けると、外国の企業や大学が我が国で特許権や意匠権、商標権などの知的財産権を取得しようとするニーズに対応する必要もある。

一方、公表されている合格率などを根拠として、弁理士試験は一般にとても難しい試験と思われているようである。しかし、正しい方法で一定期間集中して勉強し、諦めず最後までやれば必ず合格できる試験である。受験勉強を始めるのは、何歳からでも遅いということない(※4)。一番難しいと考えられる二次試験(論文試験)も、従前は必須5科目・選択3科目(計8科目)を連続6~7日間で実施する過酷な試験であったが現在は緩和の方向で見直され、科目数も減り試験時間も短くなっている。法律科目については昔も今も思考力を問われる良問である点は変わらないので勉強すべき内容が変わったわけではないが、現行制度の方が科目別の合格が認められているため科目をしぼって戦略的に受験できる。また、選択科目の免除対象者が増えているなどの点で、従来よりも効率よく合格できるため、これから知財業界に向かう人には追い風であることは間違いない。

ちなみに、当事務所でも現在、技術系の弁理士又は特許技術者を募集中であるので、京都市南部や大阪北部といった当事務所への通勤圏内にお住まいで興味のある方は募集要項を参考にぜひご検討いただければ幸いである。

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※1 日本弁理士会 ウエブサイト最新の会員分布状況(2021年9月30日)
https://www.jpaa.or.jp/about-us/members/

※2 特許庁統計資料「特許行政年次報告書2021年版〈本編〉」
https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2021/index.html

※3 特許庁資料「令和3年弁理士試験志願者統計」
https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/shiken-tokei/document/2021/1_shigan.pdf

※4 上記統計資料によると、2021年度の志願者全3,851人中50歳代以上は1,037名(約26.8%)、60歳代以上が353名という。