真に外国事件に強い特許事務所を目指して

2020.09.23 

当事務所は、事務所名に「国際」をつけていないが(※1)、国内事件に止まらず、外国事件にも大いに強みを発揮できる事務所である。主張するだけなら簡単なので、ここでは具体的な数字をその根拠として示したい。

外国で特許権を取得するために外国出願が必要であるように、外国の企業や大学等が日本国の特許権を取得するためには、彼らにとって”外国出願”(すなわち、日本国内の代理人を「特許管理人」(いわゆる「現地代理人」)として選任し、日本の特許庁に特許出願)を行うことを依頼することから始めなければならない(※2)。当事務所は開業当初から数年のうちはもっぱら国内の企業や個人を対象として業務を行ってきたが、その後、計画の立案から3年程度の準備期間を経て、2008年の夏頃から外国に向けて活動を開始した。具体的な活動内容としては次のようなものである。第1に、現地代理人を招待したり訪問したりすることを通じて、現地の知財実務について直接情報収集するとともに、(潜在的な)現地のクライアントの要望を聞くこと、そして我が国の知財実務や裁判例等について情報共有すること。第2に、国内外で開催される知的財産権に関する国際会議などを利用して、現地で実務者向けのセミナーを行うこと。第3に、現地代理人と緊密にコンタクトを取ること。これらの地道な活動が奏効し、徐々にではあるが、諸外国の同業者との信頼関係が構築され、日本の知的財産権について種々の相談を受けるようになった。やがて相談の一部は依頼や紹介につながり、現在は、様々な国から業務を受任するに至っている。

当事務所が初めて外国の依頼者から正式に受任した業務は、特許庁に対する特許出願の代理業務であり、2011年のことである。この年、英国とオーストラリアから初めて特許出願事件を受任した。そこから来年でちょうど10年になる。先日、これまでの受任件数を数えてみた。これまでの9年弱(2011~2020)の間に、中途受任(及び後に他の代理人に移管された事件)も含めて、外国から約170件強の特許出願事件を受任していた(※3)。一方、国内の依頼者から受任した出願明細書の起案を伴う新規の特許出願事件は200件弱であるから、約50%弱 が、全体に占めるいわゆる”外→内”事件の割合ということになる。なお、受任件数は基礎出願の国でカウントしたため、例えば依頼者が台湾の特許事務所でも優先権の基礎とする出願が米国であれば米国とカウントしている。

逆に、同じ期間に日本から外国にした”外国特許出願”は、PCT出願も1件の外国出願とカウントして、180件強(但し、自己指定は除外)。すなわち、”内→外”が”外→内”をわずかに上回るとの結果であった。なお、イレギュラーなものとして、外国の依頼者が、日本国のみならず日本国以外の諸外国での権利化を依頼するケース(強いて言えば、”外→外”事件)がわずかに含まれている。依頼者が国内であろうと外国であろうと、外国の代理人に手続を依頼するという意味において、当事務所にとっては外国特許出願に変わりないからである。

受任した事件の内容としては、比較的簡単な発明もあるが、バイオ/医薬品や医療機器、光学技術、デジタル/IT技術、新規材料(化学物質)といった極めて高度で複雑な案件も珍しくない。重要な発明だからこそ、時間とコストをかけてわざわざ我が国に出願するのである。特に、近年、医療関係の特許出願事件はその重要度を増してきているように思われる。初めて扱う極めて高度な技術分野もあり、その都度必至になって先行技術文献や関連文献を読みあさり、発明者に質問し、必要であれば国内外の専門家に指南を求め、中間処理の際には特許庁の審査官と面接審査を行う等して、対処している。もちろん、2件目以降は格段に効率良く対処できるようになっていく。

他の法域についても同様に、上記と同じ期間で”外→内”事件の受任件数(出願事件のみ)を調べた。結果、外内/(外内+内内)の割合は、商標約30%強、意匠は約50%、実用新案70%強であった。なお、これらの数字はいずれも出願という形で目に見える事件であるが、調査・鑑定、交渉、訴訟業務、権利の維持管理業務などは含まれず、また、審判事件等も除外している。特許・実用新案・意匠・商標すべてまとめると、欧州140件弱(うちイタリア81件、イギリス27件、ドイツ12件、欧州特許庁(EPO)及び欧州連合知的財産庁(OHIM)を基礎出願とするものが計11件、フィンランド・スロベニア・リトアニアその他の国が6件)、米国57件、中国69件(うち台湾33件、香港2件)、韓国32件といった感じである。その他、件数はこれらより少ないが、カナダ、オーストラリア、イスラエル、ロシア、ブラジル、インド、南アフリカ、スリランカなどからの受任実績もある。まだ出願事件に関しては受任には至らないが、最近はシンガポールなどASEAN諸国からの相談も少しずつ増えているように思う。

当事務所の場合、外内事件の8割以上が外国の同業者から受任した案件であり、企業から直接の依頼はあまり多くない。このため、逆に、こちらから依頼する案件があれば、依頼者の規模や事案の内容(技術分野や事件の性質等)に応じて最適な現地代理人を選任することができるという強みがある。また、顔と名前がお互いに一致する各国の代理人と絶えず情報交換を行っており、法改正、裁判例、運用の変更或いは各国の情勢を踏まえた実務に有用な最新の情報も入手することができている。もちろん、こちらからも我が国の知財制度についても随時情報発信するように努めている。

そして、これまでの活動が評価され、昨年には、イギリスに拠点を置くメディアであるGlobe Business Publishing社が発行する「知的財産マネジメント/世界の優れた特許実務家1000人 (IAM ; Intellectual Asset Management) Patent 1000 – The World’s Leading Patent Professionals)」という知財業界向けの雑誌において、「その他の注目すべき特許専門家(Other recommended experts)」として、初めて当職(当事務所)が選ばれ、同社のウェブサイト及び専門雑誌に当職及び当事務所の紹介記事を掲載していただいた。突然メールでその旨の通知があり、思いがけない吉報に喜んだことを覚えている。評価の基準は不明であるが、おそらく当事務所に依頼してくれた多くの外国の依頼者が信頼できる日本の代理人として当事務所を挙げ、当事務所の業務について非常に好意的なコメントをしてくれたためと思われる。

もっとも、当事務所の場合、多種多様な業務を扱っているため、売上ベースでみると権利取得業務の割合が相対的にはかなり小さい方であると思われる。むしろ、特許事務所経営に詳しい関係者であれば、これだけしか出願事件の受任件数がなくても経営が成り立っていることに驚かれる方もいるかもしれない。効率を考えると同じような業務を繰り返しおこなう方がよいが、受任件数が増えるほど1件あたりにかけられる時間は必然的に短くなり、サービスの質を低下させる原因ともなりうる。視点を変えれば、多少効率を犠牲にしてでも、高い質を維持しつつ、依頼者の様々なニーズに対応できることに注力してきた結果ともいえる。出願事件の受任件数をもっと増やすためには、明細書の起案にもっと多くの時間を割ける体制を作ることが望まれるものの、限られた人員で限界があるというのが実情である。

いずれにせよ、今後も引き続き、誠実かつ着実に、業務を行っていきたい。願わくは、当事務所の考え方に共感でき、種々の事件にぜひとも関与してみたいという意欲のある弁理士を1~2名、採用できればと思う。

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※1 開業前、事務所名に国際や商標をつけるべきか悩んだが、特許事務所が外国事件や商標事件を扱うのは当たり前と考え、むしろ、長い事務所名を避けることを「メリット」と考えて、結局、ごくシンプルに現在の「苗字+特許事務所」にした経緯がある。ただ、今思えば、多少長い名称になっても、国際や商標があった方が、国際事件や商標事件にも強いことをアピールすることには適していたと思う。

※2 特許法第8条 在外者の特許管理人
 第八条 日本国内に住所又は居所(法人にあつては、営業所)を有しない者(以下「在外者」という。)は、政令で定める場合を除き、その者の特許に関する代理人であつて日本国内に住所又は居所を有するもの(以下「特許管理人」という。)によらなければ、手続をし、又はこの法律若しくはこの法律に基づく命令の規定により行政庁がした処分を不服として訴えを提起することができない。
2 特許管理人は、一切の手続及びこの法律又はこの法律に基づく命令の規定により行政庁がした処分を不服とする訴訟について本人を代理する。ただし、在外者が特許管理人の代理権の範囲を制限したときは、この限りでない。

※3 2015年に法人化したため法人化前後で代理人が個人から法人に変わっているが、実質的に当事務所の業務として受任したものは区別なくカウントしている。なお、「受任件数」はコンフリクトがなく受任できると判断し、実際に受任した件数であり、現時点で未処理のものも含む。