特許実務(特に管理面)の中で最も重要なことの1つは、期限管理である。なかでも、重要なものは3つある。

1つめは、発明が完成したら一日も早く特許出願を行い、最先の出願日を確保するということである。先願主義の下では、最も早く特許出願した者だけが、特許を受けることができる。製造や販売を行った場合、新規性を喪失し、もはや特許を受けることはできない。米国においては販売契約を交わすだけでも新規性が失われうる。特許出願書類は完成しているのに、例えば共同出願を行うための事務処理手続によって長期間に亘り特許出願できない状況が続くケースはしばしば見られる。発明者の頭の中では発明は完成しているのに、何らかの理由により、知的財産部門に提出されなかったり、知的財産部門で長期間、出願書類作成の準備が停滞したりしてしまうというケースもあるであろう。経営判断或いは予算的な問題により、特許出願の時期を延ばすというケースもあるかもしれない。特許出願原稿が特許事務所から発明者や知財担当者の手元に届いているのに、回答に時間がかかってしまうというケースもあるであろう。出願日が本来可能であったよりも遅延するに至ってしまったこれらの個別具体的な事情を、特許法は一切考慮してくれない。先願主義とは、要するに「早い者勝ち」、すなわち、同一発明について特許権を取得できる勝者は1人だけで、それ以外のすべての者にとって「負け」を意味する。「(他者に先を越され)失敗したことで良い経験になった」といえる発明ならばよいが、世紀の大発明が他人の手に渡ってしまわないためにも、発明が完成したら1日も早く特許出願を行うことが望ましい。

2つめは、出願審査請求の期限を徒過しないようにすることである。出願審査請求期限を徒過すると、特許出願は取下擬制されるからである。出願公開されることで公知文献として扱われ、さらに、拡大された先願の地位を取得することはできる。すなわち、出願公開によっていわゆる後願排除効(後続する他人の特許権利化を排除する効果)が得られ、それにより防衛的な効果は得ることができる。ゆえに、特許出願が取り下げられたものとみなされたとしても、その特許出願が「まったくの無駄だった」ということには決してならない。しかし、取下擬制された後になって、「やっぱり出願審査請求しておけばよかった。」と後悔するケースも、現実には少なくないであろう。

3つめは、特許権の維持年金の管理を確実に行うということである。特許権を維持するためには、特許維持年金を毎年支払わなければならない。これは、「独占による対価」と考えられている。維持年金の納付期限を越えても、一定期間内であれば権利の回復が認められる場合がある。しかし、権利が消滅して何年も経った後で、権利を回復することは、ほぼ不可能である。2つめ同様に、「やっぱり権利を放棄しなければよかった。」と後悔するケースも、現実には少なくないであろう。特許権を消滅させることは権利維持費用を削減することに貢献するが、わずかな権利維持費用のために、大きな損失を被ることがないようにすべきである。

弁理士又は特許業務法人は、出願人本人(企業又は個人)から委任を受けた職業代理人である以上、出願人本人の利益を守るためにできる限りのことを行っているが、本人の意思を越えて行動することはできない。例えば、出願審査請求の期限、特許維持年金の期限までに明確な意思表示がない場合、予め明確な意思表示がなければ代理人として手続を遂行することができない。そのため、種々の期限については前もって繰り返し連絡をとる努力を行い、最大限、依頼者の利益を守るように努めている。しかし、長年特許事務所を経営していると、突然連絡がつかなくなってしまうケースや、明確な意思表示をもって権利を放棄し、後になって権利の回復を希望されるケースも、ゼロではない。

年度末は、住所変更や権利維持を見直す時期であるかもしれないが、知的財産権の意識を高く持ち、後悔のないように適切な行動を取ることが望まれる。

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