分割出願で実務上留意すべき点

特許出願日が平成19(2007)年4月1日以降の特許出願に適用される「分割出願」は分割出願の日によって実体的要件が変わるため、注意が必要である。改正前は、分割できる時期が「補正ができる期間」に限定されていたが、改正後は、「補正できない期間」である、特許査定謄本送達後30日以内(法44条1項1号)、および拒絶査定謄本送達後30日以内(同項2号)(※H20年改正で拒絶査定不服審判請求期間が30日から3ヶ月に改正されたことを受けて現在は「謄本送達後3ヶ月以内」)が追加された。

しかしながら、この新設された規定に基いて、「補正可能でない期間」に分割出願する場合、分割出願の特許請求の範囲や明細書等に記載できる内容が、分割直前の明細書等記載の範囲に制限される(*1)。審査基準に記載されている要件は下記のとおり。

・ 分割出願の明細書等が原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること、
・ 分割出願の明細書等が原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること、
・ 原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものでないこと、

拒絶理由通知を一度も受けずにいきなり特許査定になる場合は出願人が自発補正していない限り、「分割直前の明細書等」は「当初明細書」と一致するため問題は起こらないと思われるが、拒絶査定謄本を受領した場合はそれまでの審査過程で特許請求の範囲の減縮補正や削除、及びこれに対応する明細書等の記載箇所を削除する補正を行っていることも多いであろう。しかし、分割直前の明細書に記載がない場合、分割出願において、もはや出願当初の広い範囲で権利化を目指すことはできない。このため、分割出願するときは極力「補正できる期間」すなわち特許法第17条の2第1項各号に行うとともに、分割出願の可能性を考える場合、不用意に原出願から実施例等を削除しない方がよい(*2)。

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*1 分割・補正等の審査基準改訂について(特許庁ウェブサイト)

https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_tokkyo/shinsa/bunkatu_kizyun.htm

*2 この点について、上記審査基準改訂に先立って実施されたパブリックコメントにおいて寄せられた
「Q3.(前略)。明細書の一部を削除する補正を行うことを要求しない運用とすべき」(P.1)
との意見に対して、特許庁は、「4.なお、今後、拒絶理由通知等により出願当初明細書の記載の一部を削除する補正を求めるといった運用については、実態を踏まえ、必要な対策を検討してまいります。」(P.2)と回答している。従前は審査官が明細書の記載の一部を削除する補正を求める運用が一部にあったことを受けての質問とその回答である。