特許法第197条(詐欺の行為の罪)について

先日、地元の商工会議所が主催する産学公のフォーラムに参加した。講演者の一人は、半導体の分野で世界的に有名な米国の大学教授であり、講演の中で、「研究論文は引用件数で評価が決まる。もし何らかの理由で嫌われると誰からも引用してもらえないが、誰もが実施せざるを得ないような基本特許を取得すれば、好悪によらず避けて通ることができない。おまけに、お金も入ってくる。だから、私は論文よりも特許を重視する。私の研究室では、特許を出さなければ論文は出させないように指導している。」というお話をされていた。そのことに関連して、レセプションで、ある企業の方が、「米国特許と日本特許で最も違う点は何か?」という質問に対して、その教授は、「日本の特許では偽りの実験データで効果を主張しても特許されるが、米国ではそれが許されない。これが最大の違いだ。」と真顔で答えられていた。

しかし、日本の特許法でも、特許法第11章には刑事罰及び行政罰の一種である過料について規定されている。特許法は特別法であるため、故意、既遂等、一般法である刑法総則の規定が要件となるが、特許権侵害罪は刑事罰の対象ともなるし、実験データを偽って特許を受けた場合には、「詐欺の行為」として、「三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金」に処する。と規定されている。

特許権による保護は、民事上の救済だけではないのである。もっとも、知的財産権の分野で検察が公権力を発動するのは、悪質な商標権侵害など、より公益性の高い一部の分野に限られることが多いことは事実であり、そのことをもってしても、「日本では許される」と考えるのはどうか、というようなお話をさせていただいた。

特許法(昭和三十四年四月十三日法律第百二十一号)
最終改正:平成二〇年四月一八日法律第一六号

第十一章 罰則

(侵害の罪)
第百九十六条   特許権又は専用実施権を侵害した者(第百一条の規定により特許権又は専用実施権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第百九十六条の二   第百一条の規定により特許権又は専用実施権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

(詐欺の行為の罪)
第百九十七条   詐欺の行為により特許、特許権の存続期間の延長登録又は審決を受けた者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

(虚偽表示の罪)
第百九十八条   第百八十八条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

(偽証等の罪)
第百九十九条   この法律の規定により宣誓した証人、鑑定人又は通訳人が特許庁又はその嘱託を受けた裁判所に対し虚偽の陳述、鑑定又は通訳をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処する。
2   前項の罪を犯した者が事件の判定の謄本が送達され、又は審決が確定する前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。

(秘密を漏らした罪)
第二百条   特許庁の職員又はその職にあつた者がその職務に関して知得した特許出願中の発明に関する秘密を漏らし、又は盗用したときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(秘密保持命令違反の罪)
第二百条の二   秘密保持命令に違反した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2   前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3   第一項の罪は、日本国外において同項の罪を犯した者にも適用する。

(両罰規定)
第二百一条   法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号で定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一   第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項 三億円以下の罰金刑
二   第百九十七条又は第百九十八条 一億円以下の罰金刑
2   前項の場合において、当該行為者に対してした前条第二項の告訴は、その法人又は人に対しても効力を生じ、その法人又は人に対してした告訴は、当該行為者に対しても効力を生ずるものとする。
3   第一項の規定により第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項の違反行為につき法人又は人に罰金刑を科する場合における時効の期間は、これらの規定の罪についての時効の期間による。

(過料)
第二百二条   第百五十一条(第七十一条第三項及び第百七十四条第一項から第三項までにおいて準用する場合を含む。)において準用する民事訴訟法第二百七条第一項 の規定により宣誓した者が特許庁又はその嘱託を受けた裁判所に対し虚偽の陳述をしたときは、十万円以下の過料に処する。

第二百三条   この法律の規定により特許庁又はその嘱託を受けた裁判所から呼出しを受けた者が、正当な理由がないのに出頭せず、又は宣誓、陳述、証言、鑑定若しくは通訳を拒んだときは、十万円以下の過料に処する。

第二百四条   証拠調又は証拠保全に関し、この法律の規定により特許庁又はその嘱託を受けた裁判所から書類その他の物件の提出又は提示を命じられた者が正当な理由がないのにその命令に従わなかつたときは、十万円以下の過料に処する。