出願審査請求のタイミングを考える

2010.07.16 

わが国では、特許出願の審査は、出願審査請求をまって行われる(特許法第48条の2)。現行法の下では、出願審査請求は特許出願の日から3年以内にすることができる(同法第48条の3第1項)。3年を越えると特許出願が取り下げたものとみなされる(同条第4項)。法律は、このようになっているが、実務上、どのタイミングで出願審査請求をすればよいだろうか。「3年以内のいつでもよい」といわれても、では一体いつしたらいいのか、選択肢がありすぎて迷ってしまうかもしれない。その一方で、期限の到来が近づいても特許庁からは何の通知もなく、法律の規定により出願が取下擬制されるという、出願人にとって極めて重大な帰結がもたらされる。したがって、特許出願人は、出願審査請求期限を徒過してしまわないように管理することが実務上重要である。

1.出願公開された時点
特許出願は、原則として出願日から1年6ヶ月経過すると出願公開される(特許法第64条)。この出願公開された時点で、出願審査請求の要否を検討するという方策が考えられる。多くの場合、特許出願前には先行技術調査を行っているはずであるが、先行技術調査を実施した時点で未公開の先願は見つけようがない。例えば自社の出願よりも半年だけ早い、実質同一内容の発明についての他社の出願が存在していても、調査した時点ではまだ出願公開されていない。
しかし、自社の出願が公開された時点で先行技術調査を行えば、自社の出願よりも先願は必ず公開されているはずであるから、検索式が適切であれば、その未公開先願を見つけることができるはずである。
出願審査請求の前に、実施状況などにあわせて補正により請求項を追加したり修正する場合や出願前の先行技術調査を行っていない場合には、ぜひとも先行技術調査を行うべきである。仮に、その調査で特許性に影響しうる先行技術文献が見つかったときは、予想される拒絶理由を回避するために請求項の一部を補正したり、請求項を削除したりすることもできる。また、先行技術調査の結果は早期審査事情説明書を作成する場合にも役立つ。

このような理由から、出願公開された時点で出願審査請求の要否を検討するという方策は、一定の合理性があると考える。要否検討の結果、不要という結論になったとしても、あと1年半弱ほど検討期間があるのであるから、ひとまず判断を保留し、事業展開などを見据えながら最終期限までに決定すればよい。

2.期限の半年前
わが国では、出願審査請求期限を徒過した場合にこれが救済された事案は皆無である。知的財産権の分野で期限の徒過に対してこれほど厳格な国は世界でも極めて珍しいが、ともあれ、期限ぎりぎりより少し余裕を持って、例えば半年程度前に検討する方策は事故を防ぐためにも好ましい。半年前でなくても4ヶ月前、3ヶ月前などでもよい。

3.期限の直前
期限ぎりぎりまで判断を留保したいという場合には、期限を徒過しないように細心の注意を払った上で出願審査請求期限直前に手続を行うことはやむを得ないであろう。なお、有効な国内優先権主張(特許法第41条)を伴う特許出願の出願審査請求期限は、基礎出願の日からではなく、国内優先権主張出願の日から3年である(特許法第48条の3第1項)。また、特許協力条約に基づく国際出願(PCT)を我が国に移行する場合の出願審査請求期限は、優先権を伴っているか否かにかかわらず、国際出願日から3年である(第48条の3第1項、第184条の3)。但し、基礎出願が日本で指定国から日本国を除外したり、出願後に指定国の取下げをしたりした場合等、基礎出願がそのまま我が国の特許庁に係属している場合は、純粋に国内出願の問題となるあるから、基礎出願の日から3年である。

4.出願と同時
特許出願と同時に出願審査請求をすることもできる(特許法第48条の3第1項)。例えば特許出願日から3年を経過して分割出願する場合は、出願審査請求期限が分割出願日から30日と変則的であり(同条第2項)、事故が起こりやすい。よって、このようなケースでは出願と同時に出願審査請求をすることが安全である。
また、PCT出願で自己指定をして日本に国内移行手続をするときは、国内書面提出と同時に出願審査請求書を提出することが合理的である。自国での権利化が不要であるケースは稀であるし、社内で会議を開いて我が国への国内移行(自己指定)が必要という判断をし、実際に手数料を支払って国内移行手続を行っているにもかかわらず、出願審査請求を保留するケースは、小職はあまり想定できず、むしろ権利化の意思を持って移行手続を完了したにもかかわらず出願審査請求期限を徒過してしまうという事故の方が心配だからである。

優先権を伴わない通常の特許出願で出願と同時に出願審査請求することも法律的には可能であるが、一刻も早く権利化をする必要があるなど特段の事情でもない限り、合理的でない。最初の特許出願日からの1年間は国内優先権主張出願及びパリ条約の優先権期間にあたり、改良発明を追加したり、明細書に加筆修正したりできるチャンスを放棄することになるからである。また、我が国の出願審査請求費用は非常に高額であり(例えば、請求項20項の場合、特許庁への納付額は248,600円)、出願と同時に出願審査請求をする場合、これが出願時費用に加算されるため、一時に支払う費用も高額になる。
しかも、出願と同時に出願審査請求をしたからといって、特許庁は直ちに審査してくれる訳ではなく、審査結果の通知を受けるまでに実際はかなりの長期間待たされる。最新の統計は調べていないが、当事務所でも、2年以上前に出願審査請求した案件で、庁通知が未だのものはかなりある。そうであるなら、数ヶ月の差は長い審査期間に比べればとるにたらない。むしろ、優先権の利益を十分に活用し、少なくとも3ヶ月~1年くらいは出願審査請求を待った方が、はるかに合理的である。権利化を急ぐ特別な案件については出願審査請求後、すみやかに早期審査の事情説明書を提出すればよい。早期審査の事情説明書を提出すれば1年以内(小職の経験では3~10ヶ月程度)に審査結果について通知を受けることができるからである。

極めて早期に権利化したい案件であり、改良発明や設計変更の余地は一切なく、出願書類に補正で回避できないような重大な不備もなく、費用も全く問題にしない、といった状況であれば、通常出願であっても特許出願と同時に出願審査請求を行うという選択肢もありうるであろう。

(参考)

・特許庁 料金計算システム http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/ryoukin/shutugan.htm

・特許法条文(抜粋)
第48条の2 特許出願の審査は、その特許出願についての出願審査の請求をまつて行なう。
第48条の3 特許出願があつたときは、何人も、その日から3年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。 《改正》平11法041
2 第44条第1項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第46条第1項若しくは第2項の規定による出願の変更に係る特許出願又は第46条の2第1項の規定による実用新案登録に基づく特許出願については、前項の期間の経過後であつても、その特許出願の分割、出願の変更又は実用新案登録に基づく特許出願の日から30日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。 《改正》平16法079
3 略
4 第1項又は第2項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかつたときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす。

第64条 特許庁長官は、特許出願の日から1年6月を経過したときは、特許掲載公報の発行をしたものを除き、その特許出願について出願公開をしなければならない。次条第1項に規定する出願公開の請求があつたときも、同様とする。 《改正》平11法041
2 略 《改正》平14法024
3 略

第184条の3 1970年6月19日にワシントンで作成された特許協力条約(以下この章において「条約」という。)第11条(1)若しくは(2)(b)又は第14条(2)の規定に基づく国際出願日が認められた国際出願であつて、条約第4条(1)(ii)の指定国に日本国を含むもの(特許出願に係るものに限る。)は、その国際出願日にされた特許出願とみなす。
2 略