源泉徴収税について(弁理士報酬に対する課税の仕組み)

弁理士業務は民法上は委任契約に基づく事務に分類される。たまに、請負契約と記載された報酬支払予定書などが届くが、間違いであろう。委任事務が必ず成功するとは限らず、特許出願後に拒絶査定となっても債務不履行にはならないからである(但し、調査業務など委任による代理事務以外の事件については請負契約を含むことになる)。そして、弁理士に特許出願などの業務を依頼した者は、委任契約時に締結する委任契約に基づいて、弁理士報酬を支払うことになる。この場合、その弁理士報酬に対する支払いをする者は、所得税法第204条第1項第2号に規定にしたがって同法第205条第1号規定の所得税を徴収し、所定の納期までにこれを国に納付することが義務付けられている。

たとえば、ある手続に対する弁理士報酬が50万円だった場合、源泉税として10%(50,000円)を控除した450,000円に消費税(現在5%)25,000円を加えた475,000円を弁理士に支払い、控除した50,000円を税務署に支払う。報酬が100万円を超える場合は、100万円までが10%でこれを超えた分に対して20%を控除する。たとえば、120万円の弁理士報酬に対する源泉税は100万円までが10%つまり10万円、100万円を超えた20万円分に対しては20%であるから4万円、合計14万円を控除する。すなわち、120万円から所得税14万円を控除した額に消費税に6万円を加えた112万円を弁理士に支払い、控除した14万円を税務署に支払うのである。なお、実費(たとえば特許印紙代など)については非課税であるため、所得税や源泉税はかからず、請求額にそのまま加算する。

依頼者が控除した所得税は、原則として翌月10日までに、税務署に納付しなければならない(所得税法第204条1項柱書)。ただし、支払期限については第206条に例外規定(源泉徴収に係る所得税の納期の特例) があり、あらかじめ所轄税務署長の承認を受けた場合には、1月から6月までと7月から12月までの各6ヶ月分をまとめて最終月の翌月10日(つまり7月10日と1月10日)までに支払うことできる。

そして、1月~12月までに弁理士に支払った報酬の総額と、源泉税を税務署に支払った金額をいわゆる「支払調書」に記載して、その弁理士に送付する義務がある。

会社の経理部門などでは当たり前のことだが、弁理士に初めて仕事を依頼する会社や個人は、このことを知らない人も多い。なお、弁護士や税理士や社労士なども事情は同じである。当事務所でも、顧問税理士や顧問社労士に対する報酬は源泉税を控除して支払い、毎年7月と12月に半年分を支払っている。なお、控除された源泉税は確定申告後、必要な税金の計算をしたのちに「還付金」という形で受け取る。

以上のような所得税法の規定は弁理士やその他204条1項各号に列挙された者が確実に税金を収めるための規定として機能している。なぜなら、確定申告をしなければ還付も受けられないからである。

ただし、依頼先の特許事務所が「特許業務法人」の場合は依頼先が弁理士個人ではなく、「法人」であるので源泉徴収義務はない。代わりにその法人が自ら法人税を支払うからである。また、外国に居住地がある者(日本国外の依頼者)に対しては源泉税も消費税もかからない。

当事務所は現在個人事業の形態をとっているため、源泉徴収が必要であるが将来的には法人化を考えている。法人化にはメリットもデメリットもあるが、中長期的な視野で考えると、銀行からの借り入れが容易になったり事業の承継が容易になるなど、法人化のメリットは大きいと考えている。ただし、時期は未定である。

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所得税法(抜粋) ただし、当職において必要な箇所に下線部および強調を付与している。

(源泉徴収義務)
第二百四条  居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
一  原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金
二  弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
三  社会保険診療報酬支払基金法 (昭和二十三年法律第百二十九号)の規定により支払われる診療報酬
四  職業野球の選手、職業拳闘家、競馬の騎手、モデル、外交員、集金人、電力量計の検針人その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
五  映画、演劇その他政令で定める芸能又はラジオ放送若しくはテレビジョン放送に係る出演若しくは演出(指揮、監督その他政令で定めるものを含む。)又は企画の報酬又は料金その他政令で定める芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る当該役務の提供に関する報酬又は料金(これらのうち不特定多数の者から受けるものを除く。)
六  キャバレー、ナイトクラブ、バーその他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者(以下この条において「ホステス等」という。)のその業務に関する報酬又は料金
七  役務の提供を約することにより一時に取得する契約金で政令で定めるもの
八  広告宣伝のための賞金又は馬主が受ける競馬の賞金で政令で定めるもの
2  前項の規定は、次に掲げるものについては、適用しない。
一  前項に規定する報酬若しくは料金、契約金又は賞金のうち、第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(次号において「給与等」という。)又は第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等に該当するもの
二  前項第一号から第五号まで並びに第七号及び第八号に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金のうち、第百八十三条第一項(給与所得に係る源泉徴収義務)の規定により給与等につき所得税を徴収して納付すべき個人以外の個人から支払われるもの
三  前項第六号に掲げる報酬又は料金のうち、同号に規定する施設の経営者(以下この条において「バー等の経営者」という。)以外の者から支払われるもの(バー等の経営者を通じて支払われるものを除く。)
3  第一項第六号に掲げる報酬又は料金のうちに、客からバー等の経営者を通じてホステス等に支払われるものがある場合には、当該報酬又は料金については、当該バー等の経営者を当該報酬又は料金に係る同項に規定する支払をする者とみなし、当該報酬又は料金をホステス等に交付した時にその支払があつたものとみなして、同項の規定を適用する。

(徴収税額)
第二百五条  前条第一項の規定により徴収すべき所得税の額は、次の各号の区分に応じ当該各号に掲げる金額とする。
一  前条第一項第一号、第二号、第四号若しくは第五号又は第七号に掲げる報酬若しくは料金又は契約金(次号に掲げる報酬及び料金を除く。) その金額に百分の十(同一人に対し一回に支払われる金額が百万円を超える場合には、その超える部分の金額については、百分の二十)の税率を乗じて計算した金額
二  前条第一項第二号に掲げる司法書士、土地家屋調査士若しくは海事代理士の業務に関する報酬若しくは料金、同項第三号に掲げる診療報酬、同項第四号に掲げる職業拳闘家、外交員、集金人若しくは電力量計の検針人の業務に関する報酬若しくは料金、同項第六号に掲げる報酬若しくは料金又は同項第八号に掲げる賞金 その金額(当該賞金が金銭以外のもので支払われる場合には、その支払の時における価額として政令で定めるところにより計算した金額)から政令で定める金額を控除した残額に百分の十の税率を乗じて計算した金額

第六章 源泉徴収に係る所得税の納期の特例

(源泉徴収に係る所得税の納期の特例)
第二百十六条  居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)又は第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等(以下この章において「退職手当等」という。)の支払をする者(第百八十四条(源泉徴収を要しない給与等の支払者)に規定する者を除く。)は、当該支払をする者の事務所、事業所その他これらに準ずるものでその支払事務を取り扱うもの(給与等の支払を受ける者が常時十人未満であるものに限る。以下この章において「事務所等」という。)につき、当該事務所等の所在地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、一月から六月まで及び七月から十二月までの各期間(当該各期間のうちその承認を受けた日の属する期間については、その日の属する月から当該期間の最終月までの期間)に当該事務所等において支払つた給与等及び退職手当等(非居住者に対して支払つた給与等及び退職手当等並びに第二百四条第一項第二号(源泉徴収をされる報酬又は料金)に掲げる報酬又は料金を含む。)について第二章から前章まで(給与所得等に係る源泉徴収)の規定により徴収した所得税の額を、これらの規定にかかわらず、当該各期間に属する最終月の翌月十日までに国に納付することができる。

(納期の特例に関する承認の申請等)
第二百十七条  前条の承認の申請をしようとする者は、その承認を受けようとする事務所等の所在地、当該事務所等において給与等の支払を受ける者の数その他財務省令で定める事項を記載した申請書を同条に規定する税務署長に提出しなければならない。
2  税務署長は、前項の申請書の提出があつた場合において、その申請書を提出した者につき次の各号の一に該当する事実があるときは、その申請を却下することができる。
一  その承認を受けようとする事務所等において給与等の支払を受ける者が常時十人未満であると認められないこと。
二  次項の規定による取消し(その者について前号に該当する事実が生じたことのみを理由としてされたものを除く。)の通知を受けた日以後一年以内にその申請書を提出したこと。
三  その者につき現に国税の滞納があり、かつ、その滞納税額の徴収が著しく困難であることその他その申請を認める場合には前条に規定する所得税の納付に支障が生ずるおそれがあると認められる相当の理由があること。
3  税務署長は、前条の承認を受けた者について前項第一号又は第三号に該当する事実が生じたと認めるときは、その承認を取り消すことができる。
4  税務署長は、第一項の申請書の提出があつた場合において、その申請につき承認若しくは却下の処分をするとき、又は前項の規定による承認の取消しの処分をする場合には、その申請をした者又は承認を受けていた者に対し、書面によりその旨を通知する。
5  第一項の申請書の提出があつた場合において、その申請書の提出があつた日の属する月の翌月末日までにその申請につき承認又は却下の処分がなかつたときは、同日においてその承認があつたものとみなす。