国内優先権制度(特許法第41条関係) (2)

国内優先権主張出願の特徴・メリットをまとめると以下のようになる。

1.最初の出願から1年以内にした特許出願を包括的で漏れのない1つの出願にまとめることができる。これにより、出願審査請求費用や特許権の維持費用を抑えられる。

2.出願日は遡及しない。このため、出願審査請求の期限や特許権の存続期間の計算は、優先権主張出願の日が起算日となる。

たとえば、2008年9月1日に「発明イ」について特許出願Aをして、約半年後の2009年3月2日に特許出願Aに発明イを改良した「発明ロ」を追加した特許出願Bを特許出願Aに基づく国内優先権を主張して出願し、さらに半年後(最初の出願からちょうど1年後にあたる2009年9月1日)に「発明イ」の他の応用例である「発明ハ」をさらに追加した特許出願Cを特許出願A及びBに基く国内優先権を主張して出願したとする。

(具体的には、例えば、請求項1に「発明イ」、請求項2に「発明ロ」、請求項3に「発明ハ」を記載し、実施例と図面を追加する。)

この場合、出願審査請求の期限は後の出願日から3年、つまり2012年9月1日、将来特許出願Cが特許されて特許権が発生した場合の権利満了日は2029年9月1日となる。すなわち、特許出願Aを権利化した場合と比べて出願審査請求の期限や特許権の存続期間満了日がちょうど1年間、延長されることになる。

3.出願審査請求手続をして審査を受けるのは、発明イ・ロ・ハが一つの出願明細書に記載された特許出願Cのみとなる。この場合、発明イ・ロ・ハは課題や解決手段の主要部が共通するなど、互いに関連する内容でなければならない。さもないと、出願の単一性違反(特許法37条違反)となり、その対応として分割出願をしなければならなくなることもある。

なお、特許出願Cの優先権の基礎とした特許出願A、Bは、それぞれの出願の日から1年3ヶ月後に取り下げたものとみなされる(特許法第42条)。

4.特許出願Cの審査において、先の出願A,Bに記載されていた発明イ、ロについての特許要件(新規性・進歩性・先願など、特許法41条1項に列挙)の判断日は、現実の出願日(2009年9月1日)ではなく、先のそれぞれの出願日(発明イは2008年9月1日、発明ロは2009年3月2日)とされる。

例えば、「発明イ」と実質的に同一内容の「発明イ’ 」の構成が明細書に記載されている他社出願Xが、出願Aと出願Bの間(例えば、2009年2月27日)にされていたとする。この場合、もし、国内優先権主張が有効でなければ、現実の特許出願日である2009年9月1日が判断日となるため、発明イは特許法29条の2の規定により拒絶理由となるはずであるが、国内優先権主張が有効であれば、発明イについての上記特許要件の判断日が先の出願日(2008年9月1日)となるため、発明イに対応する請求項については、出願Xの存在を理由として拒絶されることはない。

5.特許出願Cの出願公開日は、最初の特許出願Aから1年6月後となる。出願A,Bはこの時にはすでに取下げたものとみなされているため、出願公開はされない。すなわち、発明イ・ロ・ハの全てが記載されている出願Cのみが公開される。

以上のように、国内優先権制度はうまく利用すれば、利用価値は高い。しかし、反面、使い方を誤ると、却って不利益を被る場合もある。この点についてはまた次回記載する。