特許発明の技術的範囲について

2008.10.06 

ある製品Aを業として製造若しくは販売する行為が、ある特許権Xの侵害にあたるかという問題を考えてみる。現行の特許法第70条は、

「第70条 特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。
2 前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。
3 前2項の場合においては、願書に添付した要約書の記載を考慮してはならない。」
と規定している。
 
特許発明の技術的範囲に属するといえるためには、特許権Xの特許請求の範囲の記載に基づいて、請求項の記載を構成要件に分解し、製品Aが請求項に含まれる各構成要件の全てを備えていることが必要である。一部の例外を除き、原則として、請求項の文言に基づいて技術的範囲が定められる。従って、請求の範囲の構成要件を一つでも充足しなければ、その時点で技術的範囲に属さず、(直接)侵害には当たらないという一応の結論が導かれる。ただし、構成要件の一部を実施している場合、間接侵害については、特許法101条の規定を考慮する必要がある。なお、間接侵害についてはここでは割愛する。
 
ここで、明細書や図面の記載がどのように影響を与えるかということが問題となる。例えば、特許請求の範囲の文言上、ある概念が疑義無く明確に特定されているにもかかわらず、明細書にそれ以外の場合をも含むと記載されている場合である。このような場合も基本的には、特許法第70条1項に規定されるように、請求の範囲の記載に基づいて判断するのが原則である。これについて、いわゆるリパーゼ判決(最高裁平成3 年3 月8 日判決・昭和62 年(行ツ)第3 号審決取消事件)は、発明の要旨認定について、
「(発明の)要旨認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」
と判示している。(リパーゼ判決には判決の射程など、明細書や図面の参酌をめぐって多くの議論がなされている。)
 
また、特許権が成立するまでの出願経過は権利範囲を解釈する場合に参酌することができる。例えば、意見書において拒絶理由通知で引用された先行技術文献との違いを説明するために、特許請求の範囲の文言を限定的に解釈する主張を行っていて、その主張が審査官や審判官に採用された結果、特許権が成立した場合は、後になってこの限定的解釈を覆す主張をすることは認められない(包袋禁反言の法理などという。)
 
但し、文言上は特許発明の技術的範囲に属さないと判断される場合であっても、均等論(イ号製品ここでは製品Aが特許権Xの請求の範囲の記載からみて文言上技術的範囲に属さないと評価される場合でも、実質的にみれば属するとする、いわば特許権の権利範囲を拡張的に解釈する理論。最高裁で均等が成立するための5つの要件が判示されているがここでは割愛する。)によって、実質的に特許発明の技術的範囲に属すると判断される場合があるので注意が必要である。
 
実質的に技術的範囲に属すると評価される場合であっても、先使用権や消尽など、特許権の行使を妨げる事情(抗弁事由)があれば、差止請求や損害賠償請求などの権利行使は認められない。
 
このように、ある製品Aを製造販売する行為が特許権Xの侵害を構成するか否かという問題について、結論をまとめるには非常に多くの検討が必要であり、どちらかに白黒はっきりと結論をつけることが非常に難しいケースも多々ある(裁判所でも地裁と高裁とで判断が逆になることもよく見られる)が、基本的には上記のような考え方で判断することになる。